- ——ジェリービーンさんが絵をお仕事にしようと思われたのはいつ頃ですか?
- 子供の頃から漠然と「将来は絵を書く仕事するんだ!」という意識はありました。例えば女の子に似顔絵を描いてあげたらそれだけで人気者になれたということもあって(笑)、休み時間になるといつも絵を描いているような子供だったんです。とにかく器用だという事だけは自信がありました。
- その頃は絵が描ける仕事というと漫画家しかなかったんですが、自分はストーリーテラーとしての才能はあまりなかったし、早く描くことも得意ではなくて。どうしたものかと思っていたところ「イラストレーション」という言葉が爆発的に取り上げられはじめたんです。湯村テリーさんや河村要助さんが大活躍されていた80年代の頃ですね。そこで「イラストレーター」という仕事を知ったんです。広告や雑誌にイラストが大々的に扱われて、キラキラした時代の煽りをもろに被りながら「これだ!」と思ったんです。
- ——「イラストレーター」という言葉が、自分のやりたいことを表していたんですね。
- 横文字でカッコよかったですしね(笑)。それからイラストレーターを目指して研究所などでデッサンを勉強していたのですが、美術史などを知っていくうちにイラストレーターは同じスタイルでしか描けない仕事なんだと自分には思えてきて、それからは「画家やアーティスト」両方を重ね合わせた存在を志すようになりました。研究所では当時の仲間達と絵で競って切磋琢磨しつつ「どれだけ目立ってやろうか」というところでも張り合っていましたね。
- ——実際にお仕事として絵を描かれるようになったきっかけは何ですか?
- 絵描きとしての活動の手始めには自分がやっていたバンドのフライヤーを選びました。ステージネームの「Jelly Bean」として描いたので、仕事とバンドのキャリアは同じなんです。ライブをするときに告知のフライヤーを描いて、それを見た友達にジャケットやポスターを頼まれて、それからさらにオファーがきて、といった流れでだんだん仕事につなげていった感じですね。国内外問わずたくさん描きましたよ。
- ——バンド活動は現在も続けられていますし、ジェリービーンさんにとって大事なモチーフのひとつですよね。どういった位置づけですか?
- バンドはあくまでも趣味であり仕事ではないのですが、自分にとってその二つは切っても切れない関係ですね。自分の好きなガレージパンクと呼ばれるジャンルと絵で表現したいことは世界観はリンクしているところが多いんです。音楽でも衣装や楽器のデザインに主張のあるキャラクターの濃いバンドが好きだし、絵にもロックを感じないと物足りない。絵も音楽も両方が必要なんです。あえて分けるなら、バンドは仲間とやることで、絵は自分ひとりでやること、というくらいかな。
- ——ほかには女の子のイラストも特徴的で、ジェリービーンさんのシンボルにもなっていますね。
- 女の人を描くのは好きですねぇ。昔はこっそり描いてましたけど(笑)。女性を描いている時は、その絵にかなり感情移入しちゃうんですよね。なんというか、その子とデートしてるみたいな(笑)。なので、なるべく長く描いていたいんですけど、そうすると締め切りに間に合わなくなるので大変ですね。10代のときに見た空山基さんの「ピンナップ」という画集に衝撃を受けたのがきっかけです。60年代「プレイボーイ」のグラビアに出てくるような女性のイラストが中心の作品集なんですが、西海岸の太陽を浴びたむき出しの肌がワイルドで、ただセクシーというだけではなく、すごくイカしていて。それ以来、自分が一番頑張れるテーマですね。男だけでなく女性にも「カッコいい!」と感じてもらえると嬉しいです。
- ——自分のスタイルや世界観を表現するというこだわりは、イラストレーターを始められた頃から強かったんですね。
- 仕事として始めた頃はまだ青臭いところがあったので、自分が好きなスタイルの仕事以外はあまり受けない、というスタンスでした。絵だけではなく力仕事のバイトも平行してやっていたので、それでもよかったんです。
- そうやって5年くらい仕事を続けて、ある日アメリカに修行へ行こうと決心してお金が必要になったときに「ちょっと待てよ」と。絵と力仕事の二つを掛け持ちするより、自分の場合、早く描ける方法を見つけて絵の仕事を増やしたほうが効率がいいんじゃないか、とようやく気付いたんです。そこで知り合いのデザイン事務所に「何でも描くので」とお願いして、ゴルフ雑誌や大学案内のパンフレットのカットなど、スタイルに限らずいろいろと凄い勢いで描き始めました。結果的に仕事の幅が増えたし、その時の経験が私の画家人生においてすごく勉強になっています。
- ——アメリカに修行に行かれたのはどうしてですか?
- 描いていたモチーフはすべてアメリカへの憧れからきているものだったんです。金髪の女の子や、派手な車や、キラキラしたネオンなどですね。ジョン・トラボルタの『グリース』という映画が好きでねぇ。子供の頃から向こうに行って生活してみたいと思っていたし、本質を知らないで描いているということにも抵抗が元々強かったんです。渡米を決心したのは、バンド初の海外ツアーでアメリカに行ったときでしたね。車で移動中にネオンがすごくカッコいい店があったんですが、よく見たらクリーニング屋だったんですよ(笑)。そういった生活に根付いたカッコよさは実際に住んで見ないと分からないし、きちんとカルチャーを自分の中に入れるにはそれしかないんだと思ったんです。それからお金を貯めて、アメリカの知り合いに手伝ってもらってロスに住み始めました。
- ——実際にアメリカで暮らしてみて、いかがでしたか?
- 自分は日本人が作ったイメージにだまされていたんだと、ちゃんと現実を見ることができてよかったですね。西海岸でも金髪の女の子がいっぱいいるわけではないんだな、とか(笑)。特に自分にとっては、日本人は海外から評価されていることに気付いてないんだという発見が大きかったですね。どうしても外国というだけでコンプレックスを感じてしまいがちですが、向こうは日本を面白がっているんですよ。そういった日本の良いところが見えてきて、それならば日本とアメリカをミックスさせるしかないんじゃないかと思うようになりました。それがアメリカに行って一番変わったことですね。その考え方で仕事をするようになって、今に至るといった感じです。
- ——ペンタブレットを導入されたのはいつ頃ですか?
- 仕事がだんだんスピード重視になっていったので、まずMacを導入して、PCで作業をするならペンタブレットがいいと教わってIntuos3を使い始めました。海外にいると手描き原稿を送ってデータ化してもらうという手間がかかってしまうんですが、デジタル作画を始めてからは自分で完成原稿を入稿できるようになったので、めちゃくちゃ便利だと思いましたね。新しい道具を手に入れた嬉しさや楽しさもあって、それからペンタブレットを多用するようになりました。
- ——それまでアナログで描かれてきて、デジタル作画との違いはどういったところに感じますか?
- 好き嫌いでいえば、実際に原画が残るやり方のほうがいいし、全部手でやりたいんです。でもキャンバスに向かって塗り始めて「この色じゃなかった!」というときに直す作業はすごく大変ですよね。描いてしまうともう引き返せないと思うと、不安になって勢いがなくなるんですよ。なので、いったん下描きしたものを取り込んでPC上で色を決めて、何枚かサンプルを出して最初の段階でイメージを固めてしまうんです。その作業を経てキャンバスに向かうと、気持ちよくガッと筆を動かせるようになるんですよね。
- ほかにデジタル作業ではわざと失敗するようにしています。たとえば「選択していないところ全部に色を塗っちゃった」というミスがあっても、意外とそれが良かったりすることがあるでしょ? 失敗することで、偶然性からのみ生まれるようなことをシミュレーションしている感じですね。結果的にもし気に入らなくてもデジタルであればすぐに前の状態に戻すことも出来ますし、それはアナログでは絶対にできないことですよね。
- ——デジタル作画の場合はどのような作業工程ですか?
- 色んなパターンがありますが、多くは鉛筆で黒い部分まで描き込んだデッサン絵のような状態でPCに取り込んで、基本的に塗りだけペンタブレットを使って作業しています。Tシャツやポスターなどグッズものの版下も素材と重ねる部分を計算に入れて、業者任せにせず自分でできるので面白いですね。そうなると遊びを入れる余裕も生まれますから。ただ、PCの扱いがうまいわけではないので、要所をペンタブレットに補って支えてもらっている感じです。本当に、これこそ文明の利器ですね(笑)。最近Intuos5を導入したんですが、さらに進化していますし、絵描きとして嬉しいです。
- ——液晶ペンタブレットCintiq 24HD touchを使われてみていかがですか?
- すごく使いやすくて、素晴らしいですね。板のペンタブレットだと、手元とディスプレイを視点が往復することでどうしても疲れてしまうので、さらに作業がしやすくなりそうです。とはいえ、今のIntuos5が描きにくいというわけではないですよ(笑)。性能には充分満足していますから。
- ——様々な媒体で活躍されていますが、イラストだけでなくご自分のショップ「EROSTiKA」を持ってグッズを直販されている点が他の作家さんと大きく違うところですね。
- そもそも商品に載っている絵が好きだったんです。海外の雑貨、キッチン用品や食品、文具などのパッケージやロゴなどですね。いろんなものが描きたいという思いの延長線上に、服や玩具、食器があるということで、ちょっとデザイナーに近い考え方なのかもしれませんね。仕事でやらせてもらえているのは嬉しいです。お店を始めたのは長く描き続けるために自分のブランドが欲しかったということもありますが、何よりも直接お客さんの声が聞けることが面白いですね。絵描きだけをやっているとそうはいきませんから。
- ——グッズという意味では、今回も使われているマスクもそうですね。すごくカッコいいです(笑)。
- 基本的にシャワーを浴びるとき以外はいつもかぶってます。これはプロレスラーのマスクも手がけられているミステルカカオ氏にお願いして作ってもらった物です。自分が描いたスケッチのイメージを寸分の狂いもなく、それ以上のイメージを盛り込んでいただきました。
- ——海外も媒体も超えて活動されるにあたって、イラストレーターとしてはどのような考えをお持ちですか?
- 私の場合はイラストレーターとして同じタッチを続けるだけでなくいろいろと描いてみたかったので、アーティストである画家としての世界も一緒に表現できたら、という思いがまずありました。そこに自分の好きな音楽や女性といったモチーフもうまく混ぜる事ができれば一番いいなと。昔はプレゼンに持っていくポートフォリオも、完全な仕事用のものと別に自分のテイストを前面に押し出したものも常に持ち歩いて、クライアントの反応しだいで使い分けていました。結果的にこういうテイストで描くことは理解されるようになったので今では「おまかせで」という仕事が多いですが、アウェイに向かっていく楽しさは常に持っていたいですね。
- ——これからやりたいこと、描きたいものはありますか?
-
まだ完成に至っていないものとしては自分の画集ですね。アナログの作品を中心にまとめたものを来年の夏には出せたらということで作業しています。あとは、以前『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』のときにTシャツでコラボさせていただいたんですが、今回の『Q』でもまた仕事ができそうなので、楽しみです。
- 正直なところ、玩具や服、ブランドとのコラボなど自分の夢だった仕事はもう全部やらせてもらったような気でいるんですよ。この感じのままずっと続けたいというのが基本的な目標なんですが、たくさん応援してもらってこそ続けられるわけですから、ちゃんと活躍して、また海外にも行かないといけないなと思っているところです。
- ——それでは最後に、次回ご登場いただけるイラストレーターの方をご紹介いただけますか?
- KEN THE FLATTOP氏を。ピンストライプのアーティストです。自分が絵を描き始めた頃の仲間で、天井一面に雲を描くという兄貴分が取ってきた仕事を一緒に手伝ったこともあります。世界は違えど一緒に頑張ってきた感じなんですが、最近になってリンクすることが増えて嬉しいですね。技術者で職人肌なんですが、西海岸のアメリカ人みたいなノリで、ゴキゲンなヤツですよ(笑)。
Rockin' Jelly Bean Art Graphics
商品紹介
ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破×Rockin'Jelly Bean
Shot Sleave T-Shirt “3 Girls”
ROCKIN'JELLY BEANと『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』とのコラボ商品。「綾波レイ」「式波・アスカ・ラングレー」「真希波・マリ・イラストリアス」の3人をロッキンジェリービーンさんのテイスト溢れるアレンジを加え一つの作品にまとめ上げています。
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