- ――またよしさんが絵を描きはじめたのはいつ頃からですか。
- まだ本当に小さい頃からですね。母が童話に出てくるようなお姫様の絵をよく描いてくれていたのですが、私も見よう見まねで描いてみたら褒めてもらえて、すごくうれしかったのを覚えています。小学校に上がってからも、友だちに頼まれてキラキラしたかわいい女の子の絵を描いたら喜んでもらえて、それもすごくうれしくて。絵を描けば喜んでもらえるんだという気持ちが、絵を描きたいという想いの根底にあるように感じています。
- ――その頃の主な活動場所というのは?
-
小学校には漫画クラブというのがあって、そこに所属して漫画の模写等をやっていました。中学校では美術部に入ったのですが、ただそこもほとんど小学校の延長のようなもので、まだ本格的に絵を描くという感じではなかったですね。
それよりも一番刺激を受けたのは同人活動でした。中学生のときに、同じクラスの友人に誘われてはじめて同人のイベントに連れて行ってもらったんですよ。地元は田舎だったのですが、数ヶ月に一度のペースで小規模な即売会がひらかれていて。そうして同人活動に興味を持つようになって、自分でもペーパー等を作って参加するようになりました。ドキドキしながらブースに座っているだけだったんですけど、いつもと違う空間に入り込んだ感覚がありましたし、緊張感もあったので楽しかったですね。
ただそうした同人活動も高校2年生くらいまでで、周りの友だちも忙しくなってきたり、地元で同人イベントを企画してくださっていた方が引っ越してしまったりして、自然と縁遠くなっていってしまいました。
©またよし/WANIMAGAZINE CO.,LTD.
- ――では同人活動以降の絵との関わりというのは。
- 「絵を描くのが好き」という想いは変わらず持ち続けていたので、地元の高校で美術部の活動が盛んなところへ進学しました。そうしたらそこの顧問の先生が、独特の熱気を持った方で。それまでやったことがなかったのにいきなり「油絵を描いてみろ」と言われて。ただただ一生懸命に描いてみたのですが、それが運良く、当時の全国高校総合文化祭に出展する県の代表に選ばれたんです。そのことで急にいろんな方に褒められた結果、「私は油絵が得意なのでは!」と思うようになってしまって(笑)。大学受験では家族の応援もあり美大を目指すことを決意して、東京で美術の予備校に通うことにしました。
- ――そこでいよいよ本格的に絵の道を志されたわけですね。
-
そうですね。でも予備校に入ったときは、他の学生のレベルの高さにとにかくびっくりしました。画材ひとつとっても、私は学校で支給されるような基本的なものしか持っていなかったのですが、みんなは空き缶に何本も筆をさしていたり、絵の具も大きなチューブをもりもり使って描いていたりしていて。高校では受験シーズンに油絵を描いているような生徒は私一人だったので、周りがどんな絵をどんな風に描いているのか全然知らなくて、「これは、すごい世界だ!」と本当にカルチャーショックを受けましたね。周りの人に褒めていただいたので描けると思っていましたけど、私はまだまだだったんだと思い知らされました。
それでも美大に行くなら国立の学校を目指したいと、そこだけに絞って受験したのですが合格することはできなくて。浪人して何度かチャレンジしたのですがそれでも難しくて、もうそろそろ働かなきゃいけないなと感じて、絵とは関係のない派遣社員やアルバイトをするようになりました。
- ――その頃も油絵は継続して描かれていたのでしょうか。
-
描こうとしたこともあったのですが、油絵は準備や片付けにすごく時間がかかるんですよね。描いているときも、絵の具が乾く前に早く次の絵の具を重ねなきゃといった焦りもありますし。なので、その頃には油絵は辞めてしまって、代わりに絵チャットやイラスト掲示板にデジタルのイラストを投稿するようになりました。いつでもはじめられて簡単に保存や中断ができてと、ちょっとした時間でも描けるというところが良かったんです。だから一時期はネット上での活動が中心でしたね。
ただそんな中であるとき、通っていた絵チャットの参加者が何人かで集まって合同誌を作ろうという話が立ち上がったんですよ。私も参加したのですが、みんな個性的だしこだわりもあるので、すごくエネルギッシュな本ができて。その流れで上京してからは行っていなかった即売会にも足を運んだのですが、久々の同人活動でしたけどやっぱりすごく楽しくて、また自分でも本を作って参加するようになりました。
©またよし/エディス編集部
- ――そこからイラストのお仕事をされるようになった経緯というのは。
- 持ち込みがきっかけですね。当時応募先を探したときは郵送での受付がほとんどだったのですが、自分の絵を見てもらった反応を目の前で聞きたかったので持ち込みという形にはこだわりました。そこで運良くお仕事をいただけることになったのですが、それと平行して同人活動の方からも声をかけていただけることも増えてきて、徐々にアルバイトを減らしてイラストに絞っていくようになりました。
- ――ペンタブレットを使われるようになったきっかけは?
- はじめはマウスを使っていたこともあったのですが、予備校の頃にもっとペンのように描けるツールがあると友だちから聞いて興味を持って。それで家電量販店に行ってみたら、すでにいろんな種類のペンタブレットが出ていた中で、ワコムのペンタブレットのパッケージが「私、できます!」みたいな雰囲気を出していて、すごく好きだなと。
- ――「私、できます!」みたいな雰囲気が気になります。
- うまく説明できないんですけど、「私を買えば、描けます!」というオーラがあったんです(笑)。それで一番小さいサイズのものを試しに買ってみたら、期待どおりよく働いてくれました。それからは、使いつぶすたびに後継機種を買うという感じで今に至っています。
- ――現在はどのような制作環境ですか。
- 今はIntuos4を使っています。ショートカットはスポイトしか使わないので、それをペンのボタンに割り当てて、タブレットを膝の上に乗せて描いています。前はタブレット側のボタンも使っていましたけど、今はペンのボタンだけですね。PCはiMacで、ソフトはPhotoshop CS5です。
- ――使いはじめた頃、アナログとの違いは感じましたか。
- 特に違和感もなく、スッと馴染みましたね。むしろ自分に合っているなと思いました。もちろんアナログには失敗できないという緊張感があったりと、アナログなりの強さもあるのですが、私は白いキャンバスに向かったとき考えこんでしてしまうタイプだったので、デジタルではとりあえずレイヤーを分けて描いてみてダメだったら消そうといったような気軽さや、完成させるまでにいろんなことが試せるところがすごくしっくりきました。
- ――またよしさんの色を重ねて置く描き方は、厚塗りの手法とも少し違っていますよね。とてもオリジナリティがあって素敵だと思うのですが、どのようにしてこの描き方になったのでしょうか。
- たぶん鉛筆デッサンのときの感覚に近いんだと思います。私の場合、いきなり線を描くと跡が残ってしまうので、まずさっと鉛筆で薄く色を付けるんです。それを少しずつ重ねて濃くしていくという手法が、鉛筆デッサンの好きなところだったのですが、その感覚がデジタルを使うようになった今も続いているのかなと思います。
- ――アタリを付けて輪郭線を整えていくのではなく、色を濃くしていく中で輪郭を作り出すイメージなのですね。
- そうですね。最終的に仕上げで色を置くときもいきなり強い色は置けなくて。少しずつ重ねて陰影を付けていくというのが描いていても楽しいんですよ。最近はお仕事によっては先に線でラフを描いてしまうこともあるのですが、まず色を置いて、それから整形していく方法が一番しっくりきますね。
- ――影響を受けた作家さんはいらっしゃいますか。
- 中学校の図書館ではじめて見たノーマン・ロックウェルはびっくりしましたね。これが写真ではなく絵なのかと。描かれている人物も皆表情豊かで、目が離せなくなりました。よく画集を借りてはまじまじと見ていましたね。また高校のときは、顧問の先生がレンブラントを好きで、関連書籍を貸していただいて読んだりしていました。あとは予備校生時代に知った鴨居玲という画家ですね。色づかいももちろん印象的なのですが、人物の切り取られ方がすごく好きで。私も人物を白い背景に置くことが多いのですが、人物の形はもちろん、人物が置かれている空間の形も意識するようになったのは、鴨居さんの作品を見てからだと思います。
- ――レイアウトや構図への意識を高めたわけですね。
- そうですね。例えば人物の横顔をキャンバスに描くだけでも、真ん中にどしっと置いてあるのか、後頭部側に空間があるのか、顔の前に空間があるのかで受け取られ方がまったく変わるんです。それまではモチーフの質感をうまく描けているかといったことばかりを追っていたのですが、空間の配置によって人物にかかっている空気の重さを感じさせる、という手法があることを学びました。
- ――同人活動やイラストレーターとしてのお仕事をされる中で、絵本の制作をはじめられた経緯というのは。
- コミケなどではイラスト集を作ることが多かったのですが、昔から童話が好きだったこともあって絵本への憧れがあったんです。ただ自分には文才がなく、ちゃんとしたお話が書けないだろうなと思っていて。そんなときに、詩を投稿する掲示板で知り合った菅野裕司さんがお話を作ってくださることになったんですよ。日常のちょっとしたことをユーモラスに表現される方で、個人的にもとても好きだったのでうれしかったですね。本音を臆することなくぶつけ合っていたので絵本作りは大変でしたけど、2年かけてようやく、『かみながのリコ』という最初の作品を仕上げることができました。
- ――絵本を発表されて、手応えはいかがでしたか。
- イラスト集を出したときに比べて、周りの方から感想をいただくことがすごく多かったです。物語があることで、絵だけのときよりも、読む方それぞれの受け取り方や見ている部分が違ってくるんでしょうね。その感想を聞くたびに、お話の力ってすごいなと思いました。それがうれしくて、もっと作りたい、もっと作りたいと。その結果、商業で『魔人と野バラの魔女』を出版させていただいたり、最初の『かみながのリコ』がフランスで出版されたりと良い流れもできてきて。これからも菅野さんとのタッグは続けていきたいですね。
- ――『魔人と野バラの魔女』をはじめ、またよしさんの作品ではモチーフに魔女や老婆がよく登場していますが、その理由というのは。
-
小さいときから、童話に登場する腰の曲がった鷲鼻の魔女や老婆には憧れがあったんです。怖さももちろんあるんですけど、小さなものを瓶に詰めている様だったり、使っている小物だったり、そういう細部も含めて好きなんですよね。
ただ学生の頃は、単純に好きということとそれを描くということがイコールで繋がっていなくて。受験のためにとか人に頼まれたからとかいった理由で描くことがほとんどだったので、プライベートでもそこに縛られていたのかもしれません。デジタルで描いたり絵チャットに通うようになってはじめてそのことに気付きました。それからは、もっと気楽に描きたいものを描いて良いんだと思えるようになって。じゃあ私の好きなものってなんだろうと考えたときに、魔女のモチーフは昔から変わらずに好きだなと。すごく遠回りしましたけど、ようやくそこにたどり着きました。
- ――テクニック面で何かこだわっていることはありますか。
- 色を決めるときにPhotoshopのトーンカーブを使うところですね。ラフを描いて色を置いて、そこから色を作り込んでいくときにトーンカーブで調整してみることで、自分では思い付かなかった発想が生まれるんです。そうやってイメージを膨らませるようにしていますね。
- ――今回、液晶ペンタブレットのCintiq 24HD touchを使われてみての感想は?
- 楽しいし、面白いです。板型のペンタブレットでは画面と手の位置が違うので、手元を見ながら描くというイメージではなかったのですが、液晶ペンタブレットは紙に描くような感じで顔を近付けて描くこともできて新鮮ですね。はじめて触れるのでまだ十分には使いこなせていませんが、もっと色々と試してみたくなりました。
- ――最近では個展を開催されたりと活動の幅を広げておられますが、今後さらにやっていきたいことはありますか。
- いただいたお仕事を楽しくやっていきたい、というのが一番ですね。自分が良いと自信を持って出せるもの、自分が楽しいと思えるものを描ければ、きっと良いと感じてくださる方がいると信じて。あとは自分の描いたものが最終的にどんな方に届くのかということは常に意識していくようにしたいです。
- ――最後に、次回ご登場いただけるイラストレーターの方の紹介をお願いします。
- イラストレーターのTomatikaさんを。私がネットで絵を見はじめた頃にすごく衝撃を受けた方です。世界観はもちろん、タッチや色使い、特に女の子の表情の魅力には驚かされました。しかもプロフィールを見たら同い年で、デジタル絵を描く同世代の方をあまり知らなかったのでそこでもまたびっくりしました。だから絵チャットで彼女と遭遇できたときに、年代あるある話でも盛り上がりましたね(笑)。仲良くなってからも、はじめて彼女の絵を見たときの感動は忘れられません。すごく尊敬しています。
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