- ——西村さんが絵の道に進まれるようになったきっかけから伺えますか?
- 私のペンネームは祖母から貰ったんですが、そのキヌさんは絵が上手で、母が子供の頃によく絵を描いてくれたそうです。それで母もよく私に絵を描いてくれて、私も絵を描く子に育ちました。
- で、小さい頃はその絵を両親にしょっちゅう褒めてもらってたのに、学校の図工の時間になると絵の人物からフキダシが出てたり目に星が入ってたりすると先生に怒られるわけですよ。絵でほめられるにはわざとつたなく一所懸命描いたようなタッチで描くしかないという。欺瞞ですよね!(笑)で、休みの日に自分なりにマンガ絵の練習でもしようと『戦闘メカ ザブングル』の湖川友謙さんの水彩タッチの絵を真似して描いたりするうちに、その応用で水彩画の描き方がわかって。すると学校でも褒められる様になってきて、その頃からこれでやって行けるんじゃないかと思い始めました。
- ——カプコンに入られたのはどのような経緯ですか?
- とにかくマンガ絵を描く仕事をしたいなと思っていて、短大で日本画を選択したのもアカデミックな勉強をしておけばマンガ絵を描く上で何かの役立つだろうと思ったからですが、そんな時に「ゲーメスト」に載ってた安田さん(あきまん)の絵を見て、今はゲーム業界にこんな上手い人がいるのか!と思ったんです。
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それまでマンガ絵やアニメ絵といえば安彦良和さんとかアニメ業界主導で、非常に遠い気がしてたんですが、ゲーム業界というのは社員募集なんかもしてて身近な感じでした。
そこでカプコンに直接電話して、履歴書と作品を送り入社試験を受けるに至ったわけです。
- ——最初はドッターとして採用されたんですね。
- オブジェ(キャラクターのドット絵)チームに配属されました。ドット絵は楽しかったですし、そのうち絵が上手くなればキャライラストも描かせてもらえるだろうと思ってましたね。そして半年くらいしてSHOEIさんが販促イラストを描くための部署(デザイン室)を立ち上げる際に声をかけていただき、めでたく配属になりました。
- 入社して間もない頃に『ストリートファイターII』のムックが出ることになり、うちのゲームがそんなロマンアルバムみたいなもんになるのか!アニメじゃないのに!と感動したのですが、その表紙を安田さんが描いているというのを聞きつけて夜中にこっそり見学にいきました。あこがれの安田さんの絵を間近でがっつり見れて、親切にいろいろ解説してもらってすごい感動しましたね〜。
- ——キャラクターデザイン的なお仕事をされるようになったのはいつ頃ですか?
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と言ってもカプコンではそんなにやってないですよ。格闘ものではなく『バース』や『パワードギア』『サイバーボッツ』など、メカのパイロットとか、あとはD&D2くらいでしょうか。
本格的には安田さんに声をかけていただいて『キングゲイナー』の衣装デザインという名目でキャラデザインを手伝った時ですね。 富野アニメのキャラクターの服装がしょぼいことがあってはならない!と頑張りました。
- ——アニメのキャラクターデザインはやってみたい仕事だったんですか?
- 絵描きなら誰しも一度はやってみたい仕事ではないでしょうか。しかも富野監督のアニメとかドリームカムトゥルーもいいとこですよ!安田さんが『∀ガンダム』をやってるのを「ああ、実力と野望ある人にこそチャンスはやってくることよ」とうらやましく見ていたものですが、しばらくしてそんなお話が来たので本当にうれしかったですね。
- ——『戦闘メカ ザブングル』の絵を真似たというエピソードもありましたが、富野由悠季監督の作品から受けた影響は大きかったですか。
-
富野アニメとそれ以外のアニメがある、と言ってもいいのではないでしょうか。あれほど人というもののいろいろを描いている人はいない。大人になって初めてわかることもいくつもあって、何年経っても見れてしまいます。
そして一緒のスタジオに入ると、何十年も物作りの第一線にいる人が60過ぎてなお日々貪欲にアンテナを張り、よりよい物を作ろうと働いている。
一緒に仕事をしていて本当に勉強になりますね。
- ——富野監督と安田朗さんのお二人が、西村さんにとって大きな存在なんですね。
-
物作りの師匠と、絵の師匠ですね。安田さんみたいな人が近くにいたから、私はそこそこましな絵を描けるようになったと思います。
会社でもよく絵を見に来てくれました。『SNK vs CAPCOM』のモリガンの絵は安田さんが下半身を手直ししてくれたものですし、『キングゲイナー』の小説版の挿絵は色まで塗っていただいたものがありますね。
締切前日の夜中に「大変そうですね、なんか俺に手伝えることありますか」と来てくださったものだから、「うほっ!いい申し出!じゃあ色を塗ってください」と。「本気だったのか…」と言いつつものすごい色を塗ってくれました。
師匠に色を塗らせるという悪事の限りを働いたわけですが、安田さんが塗ると私こんなに上手かったのか!みたいな絵になるんですよ…いつかは恩を返さないといけないですけど、なかなか機会がないですね〜 - 私はカプコンに入って、ようやく自分の好きなマンガ絵を描くようになったので、そこから絵の勉強が始まったようなものです。そこに安田さんという師匠や、SHOEIさんという最終的には絵のクオリティのみを問題にするような上司がいてくれたおかげで17年間会社に居られたようなものですね。
- ——イラストレーターとしては西尾維新さんの『新本格魔法少女りすか』の挿絵などを手がけられていますね。
- まだカプコンにいた頃に、講談社の編集者である太田さんが声をかけてくれて。私は『十五少年漂流記』みたいな小説が好きだったので、『りすか』みたいな今どきの感じのものを頼まれるというのは新しいチャレンジでしたね。
- ——文中でもかなり細かくキャラクターの服装が描写されていますが、キャラクターのデザインは小説を受けて?
-
受けたり受けなかったりですね。小説じゃワンピースを着ていたのをショートパンツにしてみたり、ポケットに入れていたカッターナイフをホルスターで身につけるようにしてみたり。そしたら文中でもホルスターを出していただいたりしましたね。
デザイン的には、りすかがゴスロリでおたくっぽい格好、ツナギはその反対でヤンキー風に髪もリーゼントにしたらうまくはまりましたね。私も気に入っているのでよく描きました。
- ——最近では、ゲーム『9時間9人9の扉』のキャラクターデザインを手掛けられていますね。
- これまであまりなかった現代物の普通の人々?のデザインで、これも新しいチャレンジでしたね。 キャラを立てることを一番に考えたんですけど、チュンソフトさんが自分の思っていなかった方向にキャラを動かしてくれたので、思いもよらぬ効果がありました。
- ゲーム画面で動くパターンや表情も、私が描いたラフより可愛らしくしてくれて、ありがたかったですね。私が描いた四葉はもっとダルい感じであんなに可愛くなかったし、八代も意地悪そうな感じだったのに、ゲームだと険がとれて子供のように……。後から聞いたところ、ミスリードを誘うために、悪そうな表情をさせないなどいうこともあったみたいですが。
- ——格闘ゲームに比べて、キャラクターの見せ方も違うと思いますがデザイン上の制約などはありましたか。
-
そんなに縛りはなくて、季節が秋なので服装はそれらしくというくらいだったのですが、八代がOKだった時点でもはやあってなきがごとしという…。結局のところかなり好きなようにさせていただきましたね。
四葉も最初はヤマンバ系のどうしようもない感じだったんですけど、よく考えたら可愛い子にしないと、プレイヤーに好きになってもらうのが大変ですよね。いきなりコワモテの女の子だったら雨の中子犬を拾ったりしないといけないとか。
まずは好きになってもらえるように可愛いキャラじゃないと!とくに女の子は!というのを今さら学びました。
- ——西村さんが描いていて一番楽しいのは、どんなキャラクターですか?
- 女の子のほうが描きやすいですね。男はちょっと難しいです。処理する情報が多くて。 描くのが楽しい部分は目ですね。目の雰囲気で全部が決まってしまうので、最初に雰囲気を掴めたら仕上げは最後にとっておくみたいな。モチベーション的にも美味しいところはとっておかないと。
- キャラクターごとにも、リュウは描き難いけどケンは描きやすいみたいなことがあります。 リュウはみんなの理想の主人公で、それを裏切ってはいけないというプレッシャーがあるけど、ケンはただカッコよく描けばいいので気楽ですね。「ハハ!ケン最高だぜ!かっこいい!」的な。
- ——デジタルでイラストを描くようになったのはいつ頃からですか?
-
『ストリートファイターIII』をやっていた95年頃から会社でPhotoshopが導入され、まずは安田さんが使っているのを見ていました。なんか楽しそうだったので、自分ももらったのをこれ幸いと始めました。
私は保守的なところがあるので、これがなかったらデジタル移行はなかったかもしれません。ゲーム会社という最新鋭のデジタルを扱う場に居たおかげで命拾いしたようなものですね。 -
当時はマウスで塗っていて、マニュアルも読まずに試行錯誤しながらやっていましたね。undoがあったり色調整できたり、失敗を恐れずに何度でもチャレンジできるのはいいですね。
この前、アナログ画材を使う機会があったんですが、「人生にリセットボタンはなかったんだ」と久々に思いました。
- ——モノクロの絵とカラーの絵では、描く時の意識は違ったりするんですか?
-
私は線画が97%みたいな描き方をしているので、意識としてはあまり変わらないです。
下描きをして、ラフを描いて、その上から線を引いたり整理したりという清書の作業を3段階くらいやっています。モノクロもカラ—も同じくらいコストは同じくらいなのですごい効率が悪い(笑)。
私のみどころは線だから、手を抜いたらちゃんとした絵にならないという強迫観念みたいなものがあるのかもしれません。 - 最近、『アイシールド21』の村田雄介さんが絵を描くのを見せてもらったんですけど、アタリなしでペンタッチやベタが入った絵をいきなり描いていて。マンガ家さんは常に締切と戦っているので、線を引く精度と覚悟が違いますね。どの段階でも完成した絵を描いている。ハイライトの入れ方とかが一発で決まるんですよ。そういう精度が出せるようになりたいですね。
- ——同人活動やネットで個人的に作品を発表されるイラストレーターさんも多いですが、お仕事以外でも絵を描かれることは?
-
仕事以外だと何を描いていいかわからなくて、何もしていない時に自分で描くことはあまりないですね。人にあげて喜んでもらうためには描くので、私は本当に絵を見てもらって褒められるのが好きなんだろうと。だからフリーになって色々な人に絵を見てもらえる機会が増えたのはやりがいがあっていいことですね。
いずれはオリジナルもやってみたいと思いますが。
- ——オリジナルというと、カプコン時代に出された『ときめきレクイエム』という伝説の恋愛ゲーム企画がありますね。
-
本当に女の子がこんなものをやりたいと思っているのか!?的な事を言われて幾星霜ですが、今は仮面ライダーもみんなイケメンだし戦国武将とかにも人気があるならアリじゃないかと思うんですが…早すぎましたかね。
少し前に「季刊エス」に『ときめきレクイエム2009』みたいな絵をこりずに描きましたんで、よかったら話半分に見てください。ロボとかもいますよ。
- ——最後に、次にインタビューに登場していただくお友達をご紹介いただけますか。
- イラストレーターの竹さんを紹介します。非常にリリカルな絵を描かれるイラストレーターさんです。
-
この人のらくがきがあまりに凄くて、万年筆で一発描きからの水筆でグラデとか、とにかく美しい線とカラリング&自在な発想なんですよ!自分でも真似してみたら全然うまく行かなくて、イラストレーターの丹地陽子さんに泣きついたら「あの人は別格です!誰もできませんよ!」と言ってもらいました。
西尾維新さんの戯言シリーズ当時に17歳だと知って「若くて上手い奴め…」と思っていたんですが、この前、安田さんの個展で初めて会って、あんまりいい人だったので好きになっちゃいました。 - 我々のカプコン絵を見て育ったみたいなことを言ってくれて、そんな孫子の世代みたいな絵描きさんがもう第一線で活躍しているのかと思うと空恐ろしい気持ちです。頑張らないといけませんね〜。
『9時間9人9の扉 〜オルタナ〜』(C)チュンソフト2009 講談社
書籍紹介
『極限脱出 9時間9人9の扉 〜オルタナ〜(上)』
原作:チュンソフト/シナリオ:打越鋼太郎
著者:黒田研二/イラスト:西村キヌ
定価:¥1,470(税込)
チュンソフトが贈る最新サスペンスアドベンチャーを、ミステリ作家・黒田研二が大胆かつ斬新な解釈により完全書き下ろし!
「イラストレーターのわ」は、業界で活躍するイラストレーターの方へのインタビューと、
尊敬するお友達を紹介してもらうコーナーです。
いつか皆様にも繋がる「わ」になるかも…? みなさまの今後の創作活動のヒントに活用してください!
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