- ——金子さんが絵を描き始められたきっかけから教えてください。
- 絵描きだった祖父の影響もあって子供の頃から絵を描いていました。『宇宙戦艦ヤマト』が大好きで、よく模写してましたね。『ヤマト』は、テレビの音声をテープに録音してそれを聞きながらフィルムブックみたいなものを読んだりと、本当にハマっていて。父親はそんな僕を気持ち悪がって、絵を描いていたって飯を食えない、どうするんだとか言ってましたけど、祖父は喜んでくれてたんです。勉強が全然ダメだったので、絵くらいしか褒められるものがなかったということもあったかもしれないんですけど(笑)。
- ——自分には「絵」なんだと意識されたのはいつ頃ですか?
- 強烈に意識したのは中学生のときです。アイドル雑誌の「BOMB」の投稿コーナーに、芸能人をすごくリアルに、うまく描ける人がいて。顔だけ芸能人で、体は水着姿をコラージュしたような絵なんですけど(笑)、雑誌で一番楽しみにしていたくらい好きで。僕もやってみたいと思って、見よう見まねで同じような絵を描いてみたんですね。それを友達に見せたら「くれくれ!」ってみんなが殺到したんです。それまでは熱狂的に自分の絵を求められるなんてことはなかったのでびっくりして。絵を描いてこんなに喜ばれるものなんだとすごく嬉しくて、さらに楽しくなって「これじゃん!」と。
- ——それから絵をずっと続けてこられた感じですか?
- デザイン系の高校を卒業して、グラフィックデザイナーになろうと思って桑沢デザイン研究所に進みました。といっても、当時は単純に絵が描きたいという思いしかなくて。ちゃんと調べもせず「グラフィック」という言葉の響きだけで選んだようなものだったので、受かってから「グラフィックデザイナーは絵を描かないんだ!」って愕然としました(笑)。授業も最初から身が入らなくて、本当にグラフィックデザインに合ってない、絵や文字を並べるために生まれてきたんじゃないんだ、と思ってましたね。やりたくないことをやったら死ぬ、と(笑)。それから、研究科まで進学すれば絵が描けるらしいと知ったものの、僕の周りが就職活動を始めたのを見て、自分だけ就活をしていないのがつまらなくなって(笑)、東亜プランという当時シューティングゲームで有名だったゲーム会社を受けて、卒業後はそこで働き始めました。
- ——ゲーム会社ではどういったお仕事をされていたんですか?
- ドットを打つ、グラフィッカーですね。最初は「ゲームのキャラクターなんかをひょいっと描けばいいんでしょ?」というくらいの軽い気持ちだったんですが、入ってみたらむちゃくちゃ大変で。とにかくずーっとドットをポチポチ打ち続ける毎日で。「チクショー!」とムキになって、遅れてる同期の作業も肩代わりしてやってました。あまりにも長時間作業を続けていたからか、人の顔とかまでドット絵に見えてきて(笑)。どういった色で構成されているかまでくっきり見えるようになっても「やった、俺はこれで世界一のドッターになったんだ」と思ってしまっていたくらい、仕事ばっかりやってましたね。世界一のドッターの目は一晩寝たら治っちゃったんですけど。
- ——それは残念でしたね(笑)。それからイラストレーターの道に進まれたきっかけは何ですか?
- 自分が作ったゲームのポスターを外注して描いてもらったんですけど出来に満足できなくて、これなら僕が描いたほうがいいじゃん、と思っていて。別のゲームが出るときに描かせてもらったんです。でも、社内の人間なのでギャラがもらえるわけでもなく、絶対に自分のポスターのほうがいいのに納得いかない、ということで、結局会社を辞めたんです。しばらくぼーっとゲームして過ごしてたんですが、さすがにヤバいなと思って、「ファミコン通信」とアダルト雑誌にポートフォリオを作って営業していたら、ギャラは安いですけど、なんとか仕事をもらえるようになりました。
- ——イラストレーターとして独立されてからは、いかがでしたか?
- 最初の頃は本当に仕事のやり方がわからなくて、一枚の絵に半月くらいかけてみっちり描いたりしていたので、全然食べていける感じじゃなかったですね。退社したゲーム会社のつながりでドット絵の仕事も受けさせてもらって、合間にぼんやりイラストを描いてました。「ゲーム帝国」なんかだと、まとめて描かなきゃいけなくて大変だった憶えがありますね。
- 他にも桑沢デザイン研究所の友人から頼まれてCM用のカンプの仕事もやったりしていたんですけど、とりあえずこの位置に人がいて、というレイアウトだけでいいものを、つまんないからって異常に描き込んだりしちゃったんです。「何でこんなに描くの?」というくらい一生懸命にやってしまって。でも「こんなに描けるなら」ということで「サイゾー」のイラスト仕事を紹介してもらったり。運がいいのかわからないんですけど、そういった流れでここまで来ている感じです。
- ——最近では「ビッグコミック」(小学館)の表紙も担当されています。
- 最初はやれるか自信がなくて、未だに緊張もしてますけど、とにかくがんばろうと思ってますし、何より表紙の仕事は本当に嬉しいですね。やっぱりコンビニやキオスクで毎週必ず自分の絵が置かれるというのはすごいことですし、憧れだったので。写真を元にして描くんですけど、どう写真より強く見せるかということを毎回やっています。
- ——塗り込むような手描きの味は金子さんの魅力だと思うんですが、ペンタブレットを導入されたのは?
- 普段アナログでは透明水彩のようなものを使っていて、塗っても塗っても下の色が浮き上がってくるところがあるんです。修正が入るとそれを最初から潰したりしなきゃいけなくて本当に大変なんですよね。仕事も増えてきて、どうしてもコンピューターを使わないといけなくなってしまったという感じです。しばらくはずっとマウスでしたけど、雑誌かなにかで寺田克也さんのペンタブレットの記事を見て、使うようになりました。
- ——ペンタブレットは何を使われてきたんですか?
- 最初はIntuos2だったと思います。とにかく大きなものが欲しかったのでA3サイズを購入しました。最近壊れちゃって、今は最新のIntuos5を使ってます。そこまでちゃんと細かく設定しているわけではないんですけど、修正が多そうな案件だけは最初からペンタブレットを使って描いています。ただ、そういうときでも本当は絵の具を使って描きたいんですよね。
- ——金子さんの手描きのこだわりはどういったところにあるんでしょう?
- 僕自身の絵のスキルが上がっている感じがしないんです。どれだけデジタルで絵がうまくなっても、それはソフトの知識や使い方が向上しただけなんじゃないかと。あとは、デジタルを使っているときの「原画」ってどこにあるんだろうって思うんですよ。プリントアウトすれば全部原画かというと違う気がしますし、このデータがいつまで残るものなのかなんて、本当にわからないじゃないですか。ゲーム会社で働いていたとき、静電気でデータが飛んだりしたこともあったので、デジタルをすごく疑ってしまうんですよね。みんなデジタルの何でもできる感に乗っかっていますけど、それで大丈夫なのかなとも思います。絵そのものへの工夫がなくなってしまうんじゃないかという不安は常にありますね。ワコムさんのインタビューでこういう話もどうなんだという感じですけど(笑)。
- ——それでも仕事の上ではデジタルを使う局面もあると思います。どういった考え方で使い分けているんですか?
- デジタルとアナログ、どちらも両輪として使ってみたらいいんじゃないかと思ってます。絵の具のこの効果がデジタルだとこんなに簡単に出せるんだ、ということを知っていれば、どれだけ作業時間の短縮になるのかということもわかりますよね。「乾かす時間いらないの!?」みたいな、不便さを経験しているからこそわかる便利さは確実にあるので、その方がペンタブレットのありがたみが増す気がするんですよね。色々言いましたけど、本当にペンタブレットは重宝してますよ(笑)。
- ——そういったことを踏まえた上で、今回Cintiq 24HD touchを使われてみていかがですか?
- いやあ、楽しいですね(笑)。もともと筆を動かして描く行為そのものが好きだということもありますし、こうやって画面に直接描けるのは直感的で、描いている感があって。こんなことができるんだ、というモチベーションだけでは、最初は楽しくてもすぐに飽きがきそうなものですけど、これだったらペンタブレットももっと面白く使えるようになるかもしれないです。
- ——これから先、イラストレーターとしてお仕事をされていく上で金子さんにとってのテーマは何ですか?
- ビッグコミックの表紙は何としても続けたいと思っているんですが、昔から締め切りがなかなか守れないんですよ。ここまで描けていないと渡せない、みたいなことを納期を無視してまでやってしまっていたんです。一週間かけて描いて明日が締め切りだというときでも、気に入らないからといって消していたこともありました。そんな仕事のやり方はないとわかっていますし、20年弱やってきてなんとかこなせるようになってきましたけど、それでも守れないときはある。どうしてだろう、と考えたときに、自分は楽しんでしまってるんだと気づいたんです。
- ——締め切りよりも絵の楽しさを優先してこられたんですね。
- 要するに、仕事なのに仕事として受けてこなかったんですよ。自分が面白いもの、楽しいもの、「こうだ!」と思ったものじゃなきゃいけないと思ってたんですね。絵って、そもそも人生には必要ないものじゃないですか。それを必要なものに見せることが大事で、だからこそ自分がいいと思わなかった絵なんて他の人にはいらないものなんだと。
- ——一枚の絵を仕上げるのにここまで描き込むのは、そのためなんですね。
- 16世紀くらいのフレスコ画や肖像画のクオリティって異常なほど高いんですよ。着ている服の布の質感も、素材がわかるまで描き込んであるんです。それはでも、当時は写真がなかったからですよね。今リアルな絵を頑張って描いても「写真みたいだね」と言われてしまうときがあって、その度に「え、じゃあ意味ないの?」と思うんです。それではやっぱり嬉しくない。
- ——「よく描けたね」というような反応では満足しない?
- それよりも「なんかすごい」とか「なにこれ?」みたいに、とにかくびっくりして欲しい。感動したとか、きれいだとかいうことよりももっと、言ってしまえば低俗なもの。それでいてちゃんと残るようなものを描きたい。以前、東京マラソンのポスターを描かせていただいたとき、とにかく人をいっぱい描き込んだんですけど、その一人分がギャラいくら、というわけではないですよね。とにかくこれだけ描き込んである一枚絵の「すげえ感」というものが、百分の一でも伝わればいいなと思います。
- ——お話を伺っていても金子さんご自身からも「すげえ感」は感じられた気がします! 最後に、次回ご登場いただけるイラストレーターの方を紹介していただけますか?
-
ロッキンジェリービーンさんを。アメコミっぽくてセクシーな、すごくカッコいい絵を描かれる方です。モード学園の2008年のCMもやられていました。イラストはどこかで見かけたことがあるはずですよ。
書籍紹介
「イラストレーターのわ」は、業界で活躍するイラストレーターの方へのインタビューと、
尊敬するお友達を紹介してもらうコーナーです。
いつか皆様にも繋がる「わ」になるかも…? みなさまの今後の創作活動のヒントに活用してください!
の検索結果 : 0件のページが見つかりました。
もっと見る