
- ——KEN THE FLATTOPさんが絵を描き始められたのはいつ頃からですか?
- 小さい頃からよく落書きをしていました。その時から自動車を描くことが多かったですね。生まれが横浜なんですが、当時はまだ米軍基地が稼動していて外国人もたくさん住んでいたので、道には何台もアメ車が停まっているという状況だったんですよ。カッコいいなあと思って眺めては描いていましたね。
- ——それから絵の道に進まれたのはどういったきっかけだったんですか?
- 描くことは楽しかったですけど、それを仕事にしようとは思ってませんでしたね。やっぱり車が好きだったので、最初は自動車関係の仕事をしたくて。車体を含めたデザインに興味を持って、受験前にデッサンを勉強してデザインが学べる美術大学に入りました。
- ——自動車への憧れが強かったんですね。
- そうですね。でも結局は実際に車を作る方向にはいかなかったんです。美大の在学中、自動車の会社へ企業研修に行ったことがあって。専属のデザイナーさんが講師で、自分の乗り物をデザインするという楽しい研修だったんですが、実際に会社でやられている方の話を聞いていると工程がすごく細かく分かれていて。デザインにしてもボディや内装では違う作業になるんです。僕は共同作業が苦手というか(笑)、やっぱり全部自分でやりたいという欲が強かったので、なんとなく自分の思っていたものと違うなと。

- ——それからイラストレーターになられたのはどういったきっかけだったんですか?
- デザインを学びながら、落書き程度に描くことは続けてたんです。最初は音楽をやっていた仲間のイベントフライヤーにイラストを載せてもらっていただけだったんですが、先輩に壁画を描く仕事を手伝ってくれと紹介されて、いろんなところに行って描くようになりました。当時は景気が良かったこともあって、店舗の内装に大きな絵を描くような仕事が多かったんです。それこそジェリー(Rockin'Jelly Bean)と一緒にみんなで描いてましたね。それからクライアントさんを紹介してもらってアパレル関係のグラフィックを始めて、雑誌でもカットやイラストを描くようになりました。イラスト仕事としてはそのまま今に至る、といった感じです。
- ——イラストのモチーフとしては、やはり車やアメリカの西海岸の雰囲気を感じるものが多いですね。
- 子供の頃に父の仕事で外国にいたこともありますし、当時のイメージをそのまま出していたように思います。意識してモチーフとして描くようになったのは車に乗り出してからですね。ほかにも、和風テイストをアメコミ調に落とし込んだものも、海外ではすごくウケがいいのでよく取り入れています。例えば「鯉」は向こうだと「カープ」ではなく「コイ・フィッシュ」で通じるくらいに人気のモチーフで、けっこう頼まれることが多いんですよ。

- ——ペンタブレットを使い始めたのはどういったきっかけだったんですか?
- イラスト仕事を始めた頃に、先輩のイラストレーターに教えてもらいました。最初はやっぱりコンピューターを通すとどういった仕上がりになるかわからなくてデジタル作画には抵抗があったんですが、手描きで入稿したものも結局はデジタル処理されてしまうのであれば、ズバッと「これ使って下さい」と言えるようにしたいなということでMacとPhotoshop、Illustratorを導入しました。デジタル作画を始めた頃はマウスを使っていたんですが、ペイントの仕事で使う普段の筆との感覚の違いが大きかった。それからIntuos2を触ってみたらものすごく使い勝手が良かったので、以来ずっと使っています。

- ——デジタルではどのような作業工程ですか?
- フルカラーものの塗りで多用しています。インクや塗料でモノクロまで仕上げたイラストをスキャンして、パソコンの横に置いてあるIntuos2をシュッと取り出して塗るという使い方ですね。超初歩的な使い方だけで本当に申し訳ないですけど(笑)。車だったらタイヤやボディなどのパーツごとにレイヤーを分けて、まずボディを塗りつぶしてエアブラシで影とハイライトをつけて立体感を出していくという工程です。
- ——今回初めてCintiq 24 HD touch を使われてみて、いかがですか?
- ペンのタッチも繊細だし、正直驚いてます。やっぱり手元を見ながら描けるのは理想だったので、夢が叶ったような感じですよ。子供に持たせたらずっと描いて遊びそうですよね。メカニカルなものが好きなので、このSFチックな外観もカッコいいと思います。挿絵やカットの仕事ならこれ一台で完結できそうですしね。何より描いていてすごく楽しいです。これを使ってずっと描いているだけの仕事とかないかな?(笑)
- ——現在はイラストレーターだけではなくピンストライパーとしてもご活躍されていますね。ピンストライプとはどういった経緯で出会ったんですか?
- 車を改造したりいじったりしているうちに、まずラットフィンクのエド・ロスを知ったんです。そこからホットロッドなどロウブロウのカルチャーに響くものを感じてのめり込んでいく中で出会って、自分でもやり始めました。長い穂先にエナメル塗料を含ませてぐーっと均等な線を引くという独特の作画工程が楽しくて。イラスト仕事のプレゼンのときに「こういうものもありますよ」とピンストライプも取り入れてみたら、そういったペイントの仕事も平行してやらせていただけるようになって……といった感じですね。今では仕事量もイラストと半々くらいです。
- ——ピンストライプの装飾を目にする機会は多くなってきているように思います。
- だいぶ増えてきていますね。僕のように職業を掛け持ちしている人が多いですが、日本でも100人以上のプロがいるんです。アメリカでは若者にもフォロワーが増えてきてちょっとしたブームになっていますね。お婆ちゃんくらいの世代にも「ピンストライパー」で通じるくらいなんですよ。ピンストライプは元を辿ると看板屋さんの装飾技法が始まりで、ピンストライパーが普段使っている穂先の長いブラシも、馬車を作る工場で仕上げの装飾のために開発されたものです。それらの要素を1940年代にヴォンダッチをはじめとするペインター達がストリートカルチャーに落とし込んで車やバイクのカスタムペイントに広がっていったんです。

- ——イラストレーターとピンストライパーではどのような違いがありますか?
- 最初の頃はイラストとピンストライプは全く別物というイメージで描いていましたね。続けていくうちに人と違うものを描きたくなって、イラスト的なモチーフをピンストライプで表現するというやり方を始めましたんですが、そうなるとやはりデッサン力がないと描けないということに気付いたんです。車やバイクにただ線を描くだけとはいえ、似たようなことをやっていてもカッコいいものを描けるのはデッサン力がある人、絵そのものがうまい人なんです。ただ技法だけ真似をしても、それっぽく見えないんですよね。そこに気付いてからはイラストとピンストライプに共通点を感じていますし、少しだけでも絵の基礎をやっておいてよかったなと思いますね。
- ——完全なアナログ作画であるピンストライプとペンタブレットでのデジタル作画についてはいかがでしょう?
- デジタルは「点」の集合ですが、ピンストライプは「線」で表現するので、感覚がまず違うんですよね。ペンタブレットを使う魅力のひとつはスピードだと思うんですが、ボディやバイクに実際に描くことを考えれば筆のほうが早いとも思いますし。今でこそそういったアナログとデジタルそれぞれの良さを分かった上で仕事に取り入れていますが、デジタル作画を取り入れた頃はすごく悩んでいたんですよ。

- ——それはどういった悩みだったんですか?
- デジタルとの折り合いのつけ方の部分ですね。どこまでデジタルで描くべきなのかがわからなくなったことがあったんです。ペンキで描いたベタっとした質感や同じ方向に線を描いても全く同じ線にはならないといった手描きの面白さも残したい。試行錯誤した結果、アウトラインまでは絶対に手で描いて、いくつも色を使いつつ素早く仕上げる必要があるときにはペンタブレットを使ってデジタルで描く、というところに落ち着きました。要するにペンタブレットも「筆」のひとつなんだと。使っているいつものブラシをエアブラシに持ち替えることと同じなんだ、というような考え方ですね。今ではアナログ作画であるペイント仕事と、デジタル作画を含むイラスト仕事、どちらの楽しさも良い感じでミックスできていると思います。
- ——どちらも描くことの楽しさは共通しているんですね。
- そうですね。イラストレーターもピンストライパーも「こういうのを描いてください」というオーダーがあって描きますよね。自分のテイストを加えた上で要望に沿ったものを表現して、それが喜んでもらえればどちらでも嬉しいし、楽しいですよ。ピンストライプだとお客さんの目の前で描くこともあるんですが、そのときは本当に世界で一つのものが生まれる瞬間を共有する楽しさがありますし、クライアントとミーティングをしながら描いていくイラスト仕事にもブランドイメージや売れ線を考える楽しさがある。その楽しさは全く同じものだと思いますね。

- ——最近ではピンストライプのワークショップも主催されていますね。
- 日本ではまだまだこのカルチャーの規模が小さいですし認知度も低いですから「草ピンストライパー」をいっぱい増やそうということでやっていますね。例えばサッカーは人気のスポーツですが、草サッカーが盛り上がっているからみんな応援したくなるわけですよね。単純な描く楽しさも知って欲しいんですけど、実際にやってみると実はすごく難しいんですよ。楽しさと同時に難しさもわかることで、僕らプロに対する尊敬の度合いがぐっと上がるんですよね(笑)。やっぱりメジャープレイヤーがいないと子供たちは憧れてくれないですから。年間で100人以上は教えていますしワークショップをきっかけに続けてくれている人もいるので、そこはうまくやれていると思います(笑)。
- ——メジャープレーヤーとして頑張ってくれる若手を育てたいというのがKEN THE FLATTOPとしての目標なんでしょうか?
- もっとピンストライプが認知されて、いろんなところに広がるといいなと思いますね。メジャーに出て行かないとお仕事にならないですし、アンダーグラウンドでカッコつけていても仕方ないので。あとやりたいこととしては、もうちょっと自分の絵を描く時間が作りたいし、立体的な物やグッズも作ってみたいなと思っています。
- ——それでは、次回登場いただけるイラストレーターを紹介してください。
- 中沢ヨシオさんを。僕と違ってまさに「ザ・イラストレーター!」といったお仕事をされている方なので、畑が違う分お互いに興味があって仲良くなりました。ペンタブレットのヘビーユーザーだそうですよ!
スクール紹介

「ピンストライプ」に挑戦
KEN THE FLATTOPさん自らが講師をつとめるペイントスクールです。ピンストライプ及びレタリングの基本、道具の扱い方を練習して、平面作品の制作、最終的にはご自分のお気に入りの物に自分の手でピンストライプを描きます。
「イラストレーターのわ」は、業界で活躍するイラストレーターの方へのインタビューと、
尊敬するお友達を紹介してもらうコーナーです。
いつか皆様にも繋がる「わ」になるかも…? みなさまの今後の創作活動のヒントに活用してください!
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