イラストレーター
輝竜司
人気ライトノベル『蜘蛛ですが、なにか?』のイラストを始め、ライトノベルやカードゲームで活躍する人気イラストレーター輝竜司による「Wacom Cintiq Pro 27」を使ったライブペインティングを公開!(2022年11月5日撮影)
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Drawing with Wacom 136 / 輝竜司 インタビュー
輝竜司さんのペンタブレット・ヒストリー
「イラストノイド#6」表紙イラスト(2022)
©美術広告社
――輝竜司さんがデジタルで絵を描き始めたのはいつ頃からですか?
小学生の頃から家のPCを使ってゲームを作りたかったのですが、当時の環境では子どもが使えるようなグラフィックツールもなく、プログラムで円や四角などの図形を重ねて絵を描こうとしていたのが最初です。その後、アナログで絵を描き続けていましたが、大学の漫画研究会でデジタルに詳しい同級生にAdobe Photoshopを触らせてもらったところ使いやすく、自分でも購入しました。最初はスキャンした線画にマウスで着彩していたのですが、父から「デジタイザ」というデバイスのことを聞いてずっとペン入力に憧れていて、初代のIntuosを買ったのが初めてのペンタブレットでした。
――液晶ペンタブレットを使い始めたきっかけは?
初代Intuos、Intuos3と板型のペンタブレットを使っていましたが、マンガの仕事をするようになって線画スキャンの手間を省いてフルデジタルで作業するためにCintiq 12WXを使い始めたのが最初です。当時はまだ全面的にフルデジタルに移行するには至りませんでしたが、デフォルメした絵柄で描く原稿はかなり効率的に作業できるようになりました。その後Cintiq 21UXとIntuos Proを併用するようになり、今はWacom Cintiq Pro 16(2021)を使っています。
――現在の作画環境はどのようなものですか。
自作PC(CPU:Ryzen9 5900X/RAM:32GB/GPU:RTX3060Ti)にWacom Cintiq Pro 16とサブディスプレイを1枚繋いでいます。作画ツールはAdobe Photoshopが主で、モノクロの線画はCLIP STUDIO PAINT EX、アイデアラフ用にノートアプリのConceptを使っています。最近はライティングの検討やパースの参考にUnreal Engine 5を使うこともあります。ペンはWacom Pro Pen 3DとWacom Pro Pen 2の2本をそれぞれ筆圧設定を変えて使い分けています。
――新しいWacom Cintiq Pro 27を使って描いてみた感想はいかがですか?
アナログとデジタルのいいとこ取りのような感覚で、とても描きやすかったです。普段は線画の誤差を無くすためにキャンバスを拡大表示して描いていますが、かなり引いた状態でも思った通りの位置に線を入れられますし、遅延やズレも感じないのでストレスなく作画できました。Wacom Pro Pen 3も持ちやすく描いていて手が疲れなかったので、もっと色々なペンのカスタマイズを試してみたいです。エクスプレスキーも設定を自分に合わせて最適化できればさらに作業時間を短縮できるのではと思います。
輝竜さんの作業環境。自作PC(CPU:Ryzen9 5900X/RAM:32GB/GPU:RTX3060Ti)にWacom Cintiq Pro 16を繋いでいる。通常はサブディスプレイを併用してAdobe Photoshopのキャンバスをミラー表示しているが修理中のため写真には写っていない。
ペンはWacom Pro Pen 2とWacom Pro Pen 3Dの2本を異なる設定にして、工程にあわせて持ち替えているという。
輝竜司さんのクリエイティブ・スタイル
「ゲームマスタリーマガジン」(現「GMウォーロック」誌)
5号 表紙イラスト(2018)
©グループSNE
――輝竜さんがイラストを描く時のワークフローを教えてください。
サムネイルのサイズでアイデア出しをして描く内容が決まったら、拡大してラフにします。ラフの線を整えた下絵に色をつけてカラーラフにしたら、パーツ毎にレイヤーを作って線画をクリンナップしていきます。線が描けたら塗りつぶしで塗り分けしてレイヤーマスクを作成し、グラデーションで各パーツに軽く色を入れてからブラシで塗り重ねます。ひと通りパーツを塗り終えたら落ち影を入れたり細かい描き込みを加えるなど全体を調整して完成です。
――ドローイングでは線画のクリンナップ、塗り分け、マスク作成と段階的に工程を進めるのではなく、パーツ毎に線画からマスクまで作業していたのが興味深いです。
全体を塗り分けてからパーツの主張のバランスを修正したくなることが多いので、パーツ分けの段階で色まで置くことで、重みづけをしながら描くことができるんです。後からパーツを修正したくなった時でも、パーツ毎にレイヤーフォルダが分かれていれば処理しやすく効率的です。また、カードイラストの時はキャラクターがカードのデザインと重なったり、枠からはみ出たりする箇所があったりするので、可能なかぎり細かく分かれていたほうがデザイナーさんも使いやすい素材になるかなと。
――ひととおりカラーラフを塗った後に、全体の色味が変わっていつもの輝竜さんっぽい色調になるのはどういう処理をしているのでしょうか。
レイヤースタイル[カラーオーバーレイ]で、白以外の明るい部分に乗算で薄く紫色を被せる処理と、全体にオレンジっぽい色を重ねる処理をするアクションを作って使っています。塗りに情報量を加えたくて、黒で塗った箇所や肌の色がベタっと単調な感じにならないのと、塗りに透明感が出るのが気に入っています。ドローイングで使ったアクションは青系統の色のコントロールが難しいので、青い絵を描くとき用に合わせたアクションも作ってあって、場面によって使い分けています。
――輝竜さんの塗りの、パレットから選んだ色そのままではないような不思議な感じはその処理による部分が大きいんですね。
選んだ色をそのまま塗っても面白くないじゃないですか。アナログの水彩画だと紙や鉛筆、絵の具のにじみといった物質の情報量が塗りに乗ってくれますよね。それに相当するものがデジタルにも欲しかったので、フルデジタルに移行するために色々と研究した成果のひとつです。
――塗りに使っているブラシはどのようなものですか?
ウェットエッジで塗りの端に違う色が入ってくるカスタムブラシを主に使っています。グレーで塗ると先ほどの塗り用アクションを加えたときにうっすらとフチに違う色が入ってひと筆の情報量が増えるんです。基本の塗りは、塗り分けのベース色にグラデーションを乗せて、その上にブラシで塗り重ねているだけなので、工程としてはシンプルです。
――レイヤースタイルやアクションなどツールの機能をよく使いこなしている印象です。
マルチタスクが苦手で、あまり複雑な工程だとすぐ頭が疲れてしまうので、描いているときに上手くいった処理は積極的にアクションやレイヤースタイル化して、1クリックで使えるようにしています。全体の色調整以外にも、カードイラスト用のエフェクト作成や、髪のツヤ、簡単にリアルな炎が描けるレイヤースタイルなどいろいろあります。
――ツールの新しい機能を試したりするのは好きな方ですか?
話題のAIみたいなものが出てくると、イラストをとりまく環境が変化してしまうので、ついていくためにも自分で触って判断しようと思っています。最近は背景のパースで詰まったときにUnreal Engineでセットを組んでライティングの影がどういう風に落ちるか試してみたり、立体が把握しにくいものをBlenderのグリースペンシルでさっと描いて形を確かめたりと、便利に使っています。
「Z/X -Zillions of enemy」X-EXパック第16弾「ちび☆ドラ」
『碧玉の大閃光アイヴィーウイング』カードイラスト(2019)
©BROCCOLI / Nippon Ichi Software, Inc.
――イラストを描く上で特に意識していることはありますか?
イラストには描かれていない、絵の外側に続いていく物語を織り込めるように試行錯誤しています。ちょっとした遊びを入れるのも好きで、『蜘蛛ですが、なにか?』の表紙イラストでは、必ずどこかに主人公の蜘蛛子を描くようにしています。パッと見て「いないな?」と思う巻があったら探してみてください(笑)。挿絵に登場する魔法陣の文字にもちゃんと意味を持たせたりしています。今回のドローイングで描いたイラストは、友人と一緒に作っている空想旅行記の主人公で、「旅人さん」というキャラクターなのですが、ワコムのロゴの色をモチーフに取り入れてみました。
――輝竜さんはファンタジーもののイラストが得意なイメージですが、描くのが好きなモチーフはありますか?
毎回、絵を描く上で何か学びたいと思っているんです。同じものをずっと描いていると自分が枯れてしまうので、老若男女のキャラクターやモンスター、ジャンルを問わず色々なものを描くことに挑戦したいですね。個人的な創作のテーマとしては、「底抜けに明るい能天気なもの」と「仄暗い世界で必死に生きているもの」という二つの軸があります。生き生きとしたドラゴンを描くのも楽しいけれど、冒険者が命がけでドラゴンを倒そうとする場面も描きたい、みたいな感じでバランスを取りつつ楽しみながら描き続けられるといいですね。
――ドラゴンやモンスターを描くのが好きになったのはなぜでしょう。
小学生の頃に、ゲームの攻略本を真似して絵を描いていたら同級生にすごく褒められたんです。元々『ドラゴンクエスト』とかファンタジーRPGは好きだったんですけれど、好きだからモンスターを描くというよりは、褒められてモンスターを描くのが好きになったという感じです(笑)。その後、インターネットで自分のWebサイトを作って毎日イラストを更新しようと考えたときに、描くならやっぱりドラゴンかなという感じで自然に描いていました。ドラゴンは描き慣れているので、きちんと下描きとかしなくても速く描けるんです。
Adobe Photoshopで便利なアクションを自作して活用している輝竜司さん。
序盤で使っている「効果レイヤー」アクションは全体に2種類のレイヤースタイル[カラーオーバーレイ]を乗せる処理を行っている。[乗算]で白以外の明るい色に薄く紫色が乗る+[オーバーレイ]でオレンジがかった色が乗ることで、パレットから選んだままではない色味になっている。この処理と[ウェットエッジ]の組み合わせで塗りのエッジにわずかに異なる色が入ることが輝竜さんの塗りの質感に繋がっている。
※動画では2:29から輝竜さんがアクションを使って全体の色味が変化する工程を見ることができます。
輝竜司さんのクリエイターズ・ストーリー
そらる『小説 嘘つき魔女と灰色の虹』カバーイラスト(2022)
©そらる/KADOKAWA
――小学生の頃から絵が好きだったということですが、本格的に取り組むようになったのはいつ頃ですか?
小学校3年生の時に友達と交換日記のように描いた漫画を見せあっていて、学年があがっても自分だけずっと描き続けていました。小5の時に「1枚の地図から物語を作りましょう」という国語の授業があって、私は40ページくらいの壮大な物語を描こうとして未完のまま提出しなかったんですけれど、その作品がきっかけでキャラクターの絵も描くようになったんです。中学・高校では漫画研究会に入ってサークル活動も初めていたのですが、本格的に絵が上手くなりたいと思ったのは大学に入学してからですね。
――どういったきっかけがあったのでしょう?
大学の漫画研究会の先輩や同級生に、今もプロとして活躍しているような絵の上手い人がたくさんいて、刺激を受けたんです。自分でWebサイトを作るようになって、インターネットで上手い人の絵を見たりもしていましたが、身近に上手い人がいることで、自然と自分も本格的に絵に取り組もうという気持ちになっていました。
――イラストレーターとして初めてのお仕事はどのようなものでしたか?
大学在学中にWebサイト経由で依頼をいただいて、ゲーム雑誌「アルカディア」で毎号ピックアップされたイラストレーターが設定されたテーマに沿ったイラストを描く企画に参加したのが最初のお仕事になります。その時のテーマも「ドラゴン」でしたね(笑)。ほぼ同時期に、デザイナーをやっている友人からゲームの攻略本の挿絵を描かないかと誘われて、当時はまだネットで大きなデータを送るのが大変だったので、アナログ原稿をスキャンしたデータを、メディアに焼いて出版社まで持って行ったりしていましたね。
――そのままイラストレーターとしての活動が続いていったんですね。
体調を崩して少しブランクがあるのですが、大学卒業後にパートで働きながらWebサイト経由で依頼をいただいて絵の仕事をするようになりました。「電撃Online Games」というオンラインゲーム専門誌に特典としてついてくるプレイヤーキャラクター用装備のデザインをしたり、ちょうどソーシャルゲームが盛り上がり始めた頃でカードイラストの需要が増える一方だったので、しばらくはソーシャルゲームを中心に沢山描かせてもらいました。
馬場翁『蜘蛛ですが、なにか?』(KADOKAWA刊)
1巻カバーイラスト(2015)
©Okina Baba, Tsukasa Kiryu
――これまで手掛けた中で特に印象に残っているお仕事はありますか?
やはり『蜘蛛ですが、なにか?』のイラストを描いたことが自分にとって大きかったですね。「『蜘蛛ですが、なにか?』の人」という看板ができて、作品を見て声をかけてくれる方も増えたのですごくありがたいです。
――『蜘蛛ですが、なにか?』にはどのような経緯で参加されることになったのでしょうか。
別のお仕事でお世話になっていた編集者が、「カドカワBOOKS」のレーベル立ち上げの時に「こういうタイトルがあるんだけど……」と声をかけてくれました。同じKADOKAWAで『モンスター・コレクションTCG』のカードイラストを描いていたので、その担当さんが「蜘蛛を描ける人がいるよ」と推してくれたそうです。主人公が蜘蛛の物語なので、キャラクターデザインはかなり悩みましたね。最初はもっとリアルな蜘蛛で進めていたところ、さすがにラノベの主人公としてこれは……という感じで全部ボツになってしまい、そこからデフォルメした蜘蛛子のキャラクターを作りました。
――主人公が人間ではなく「蜘蛛」というのは、人気の異世界転生ジャンルの中でも異色を放っていますね。
最終的に蜘蛛子のキャラクターデザインは、「蜘蛛型で世界を獲れるキャラクターといえばこれしかない」ということで、『攻殻機動隊』のタチコマのデザインをめちゃくちゃ研究して描きました。表紙のイラストも、何か見せ方の参考になるようなラノベはないかと資料を探しまわったのですが、ラノベっぽいもので人間のキャラクターが描いてない表紙は『ソードワールドRPG』のルールブックくらいしかありませんでしたね(笑)。
――『蜘蛛ですが、なにか?』はアニメ化もされて話題となりました。作品に関わったことで輝竜さんとしては何か変化がありましたか?
アニメは海外ですごく人気が高くて、放送が終わって2年近く経っても、蜘蛛子の絵をSNSに載せると海外のファンがすごく反応してくれて、「いい絵だね!」みたいなメッセージをいただけるのですごくありがたいですね。
日之影ソラ『ループから抜け出せない悪役令嬢は、諦めて
好き勝手生きることに決めました』(DREノベルス/ドリコム刊)
カバーイラスト(2022)
©Sora Hinokage,Tsukasa Kiryu 2022
――個人的にやってみたいお仕事や挑戦したいことはあれば教えてください。
いまは生活の都合もあって自分が請けやすい仕事に絞っているところもあるので、スケジュールを組みやすい小説の挿絵やイラストを中心にやっているのですが、VTuberさんとのコラボとか、そういう新しい方面のお仕事もできるといいなと思っています。あとは、いつか自分の名義での単著も出せたら嬉しいですね。友人と一緒に作っている空想旅行記も、もっと色々な展開ができたらいいなと思っています。個人的に温めている物語やシリーズもあるので、何かしらの形で少しずつお披露目していきたいと思っています。
――最近、手がけたお仕事にはどのようなものがありますか。
最近は、小説の挿絵が中心で、近いものだと歌い手のそらるさんの初小説『小説 嘘つき魔女と灰色の虹』の装画を担当しました。最近、創刊したばかりの「DREノベルス」(ドリコムメディア)というレーベルでも『ループから抜け出せない悪役令嬢は、諦めて好き勝手生きることに決めました』(著:日之影ソラ)という悪役令嬢ものの新シリーズのイラストを担当しているので、手に取っていただけると嬉しいです。
――最後に、輝竜司さんにとってペンタブレットとはどのような存在ですか?
毎日ずっと使い続けているもので、もはや生活の一部になっています。PCも絵を描くこと専用になっているので、もう何年もマウスを触っていません(笑)。ワコムのペンタブレットが毎日変わらず頑張ってくれるのが、とてもありがたいです!
取材日:2022年11月14日
インタビュー・構成:平岩真輔(Digitalpaint.jp)
画像をクリックすると今回制作した作品をご覧いただけます。
輝竜司
イラストレーター。大学在学中にゲーム雑誌「月刊アルカディア」や攻略本などのイラストを手がけ、卒業後フリーのイラストレーターとして活動を始める。ファンタジーの世界観や、ドラゴンなど幻想の生物を描くことに定評があり、MMORPGやカードゲームの関連イラスト、ライトノベル等を多く手掛けているほか、『ミニ・モンハン』などマンガも執筆している。2015年から7年にわたりイラストを担当してきた、なろう系ライトノベル『蜘蛛ですが、なにか?』(馬場翁/KADOKAWA)はアニメ化もされ、海外でも多数のファンを持つ人気作となっている。
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