イラストレーター
アシマ
人気ゲーム『アークナイツ』のキャラクターデザインを手がけ、可憐で品のある作風のカラーイラストで人気のイラストレーター、アシマによる「Wacom Cintiq Pro 27」を使ったライブペインディングを公開!(2025年7月18日撮影)
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Drawing with Wacom 150 / アシマ インタビュー
アシマさんのペンタブレット・ヒストリー

プライベートワーク(2024)
©アシマ
――アシマさんがデジタルで絵を描き始めたのはいつ頃ですか?
中学3年生の頃にボーカロイドのMVが好きでよく見ていて、アナログでは難しそうなMVイラストの描き方に興味をもったんです。最初はアナログで描いた線画をスキャンして、マウスを使ってパスツールで色を塗ったりしていました。それからネットの講座を読み漁るうちに、みんなマウスで描いているわけではないと気づき、ワコムのBamboo Comicを手に入れたのが初めてのペンタブレットです。中学生には高い買い物でしたが、それも嬉しくて。バンドマンが初めて自分のお金で買ったギターみたいな愛着がありましたね。
――液晶ペンタブレットを使うようになったきっかけは?
大学生の後半になって、自分の時間が作れるようになった時にもっと本格的にイラストを描きたいと思い始めたんです。Bamboo Comicもだいぶ年季が入ってボロボロになっていたので、それを機にCintiq 13HDに買い換えました。液晶ペンタブレットはプロのイラストレーターが使うものというイメージがあったので、自分もステップアップするような気持ちでしたね。その後、Wacom Cintiq Pro 24に移行して、去年の冬に最新のWacom Cintiq Pro 22を導入しました。
――現在の作画環境はどのようなものですか。
ツクモのBTO PC(CPU:Intel Core i7-11700K/RAM:32GB/GPU:NVIDIA GeForece RTX3070Ti)にWacom Cintiq Pro 22と24インチディスプレイを2枚(EIZO FlexsScan EV2451、BenQ EX2510)繋いでいます。作画に使うツールは主にCLIP STUDIO PAINTで、仕上げでAdobe Photoshopを使うこともありますね。Cintiq 13HDの頃から太めのペンが手に馴染んているので、Wacom Pro Pen 3はグリップと3ボタンの組み合わせにして、重りを入れない軽めのセッティングにしています。サブデバイスとしてKeychron Q0を使っていて、ショートカットなどを割り当ています。
――Wacom Cintiq Pro 27で描いてみた感想を教えてください。
なんといっても画面の大きさがいいですね。22インチモデルで描く時と同じツールパレットの配置でCLIP STUDIO PAINTを使ったんですけれど、いつもよりブラシを探しやすくて。常にすべてのパレットを見ながら、キャンバスサイズも大きく表示して描けるのはすごく便利だと感じました。あとはWacom Cintiq Pro 22を導入した時にも感じたのですが、従来機よりも視差が軽減されて実際に画面に描いているような感覚がありました。Wacom Cintiq Pro 24も性能的に不満はなかったのに、描き比べると確かに違うんですよね。ベゼル幅が狭くなり、本体がコンパクトになったのも嬉しいポイントでした。

Wacom Cintiq Pro 22を中心に据えたアシマさんの作業環境。PCはツクモのBTO(CPU:Intel Core i7-11700K/RAM:32GB/GPU:NVIDIA GeForece RTX3070Ti)で、モニターアームでEIZOのFlexScan EV2451とBenQのゲーミングモニターEX2510を設置している。キーボードはLofree Flow、サブデバイスにKeychron Q0を愛用している。コトブキヤのハンドモデルの後ろに飾られているのはデザインを担当した初音ミクのプライズフィギュア。
アシマさんのクリエイティブ・スタイル

『アークナイツ 4周年記念画集』寄稿イラスト(2024)
© HYPERGRYPH © Yostar
――アシマさんがイラストを描く時のワークフローを教えてください。
CLIP STUDIO PAINTで構図を考えながら、キャラクターのラフを描き始めます。ラフの段階で全体の色合いやライティングまで決めることが多いですね。線画をクリンナップした後にパーツごとに塗り分けして、色調補正で色を調節しながら塗り進めます。塗り終えたら仕上げで全体の色味を整えたり、撮影効果を加えて、時間があれば一晩寝かせて確認して完成という流れです。
――ラフの工程でキャラクターのポージングと顔を分けて描くのはなぜですか?
パーツ単位で描き込んだ後合成するほうが、元のラフにとらわれ過ぎず結果的に良い表現ができる気がするんです。先に指標としてポーズラフは描くんですが、特に顔の可愛さは本当に大事なので、可愛さ優先で描いた顔のラフを元にポーズラフの方を調整したりもします。かなり変な手法だなあという自覚はあるんですが、そのやり方で慣れてしまいました。
――最初に乗算で全体に影をのせて、削るように陰影をつけていくのも面白いです。
以前はパーツ毎に影の色を作ってぬっていたんです。ただそれだと塗り進めていく内に影の色がちぐはぐになることがあったので、全体に乗算で被せるようにしたら、今度は機械的に影を塗ったようになってしまって。そこで最初のカラーラフは全体に乗算で影を乗せることで統一感を出し、塗り工程ではその影色を基準にパーツ毎に適した色に微調整していくと全体のトーンをコントロールしやすいと気づき、今のスタイルになりました。
――アシマさんのイラストは、全体的に彩度を抑えながら、色合いとしては明るく鮮やかに見える印象があります。
空気感を表現するのに彩度が高い色は使い方が難しくて、差し色に置いてみても浮いた感じがしてしまうので、結果的にこういう色使いになっていきました。彩度は抑えながら、鮮やかに見えるような色使いは意識しているところで、足し算的に彩度の高い色を塗るのではなく、鮮やかに見せたい部分意外の彩度を抑えるみたいな、引き算で色調整することが多いですね。カラープロファイルもAdobe RGBだと自分的に彩度がありすぎる感じなので、sRGBで描いています。

プライベートワーク(2024)
©アシマ
――オリジナルのイラストを描く際に、特に意識している部分はありますか?
構図の作り方やライティングを意識しています。横図で空間を演出するのが楽しくて好きなんですが、キャラクターイラストでは横の画角を使い切るのは難しく、ラフで構図が決まるまでかなりの時間を使っているんです。アニメや映画の演出ありきでキャラクターを配置するレイアウトが好きなので、自分のイラストでもそういう空間の使い方ができないかと試行錯誤していて。それもあって16:9やシネスコみたいな画角で描きたいんですけれど、SNSで絵を見てもらうには相性が悪くて……公開するときは泣く泣くトリミングしていたりします(笑)。
――空間の演出には背景も重要だと思いますが、キャラクターと合わせて植物をよく描かれていますね。
花や草木、空をモチーフにすることが多いのは、単純にわかりやすく綺麗なものに惹かれるからです。背景に植物を描くときは、キャラクターと同じような線と塗りで描くと主張が強くなりすぎてしまうので、少しくらいラフなほうがキャラクターを阻害せずにイラスト全体の調和もとれると思っていて。あえて線画を描かずにラフの上から厚塗りのような感じで塗ったりしています。ドローイングで描いた絵だと、女の子がひまわりを手に持っているので、そこは違和感が出ないように少し情報量を増やして描きました。横構図で背景ロングのイラストでも、最終的に見て欲しいのはキャラクターなので、埋もれないように塗りの情報量をコントロールしています。
――仕上げに至る工程で、オーバーレイを使ってキャラクターに色をのせることで、絵の雰囲気がすごく変わっています。
周辺環境や手に持っている花の反射光だったり、明るい光源の影響やディフュージョン効果などを表現するために、オーバーレイやスクリーンのレイヤーをよく使用するんですが、レイヤー単体で見るとすごくごちゃごちゃしていることが多いです。最初のカラーラフのときに乗算で作った影色をそのまま仕上げにもってくると肌の色がくすんでしまうので、顔まわりには赤やオレンジ系の色をスクリーンでふわっと乗せたりして、全体のトーンを無視してでも明るめに調整するほうが可愛く見えるんです。

「絵師100人展 15」出展イラスト(2025)
©産経新聞社/アシマ
――ひまわりの葉はカスタムブラシを使って描かれていました。作画ではどのようなブラシを活用されていますか?
植物を描くときは何種類かのシルエットの素材ブラシを用意して、その組み合わせで描いたものにディテールを加筆しています。背景用のブラシは、シルエットを描くブラシや手軽に情報量を増やせるテクスチャブラシなどを自作して使っていますが、キャラクターは初期ブラシの設定を少しいじるくらいで、基本的にオイルパステル1本です。ブラシの形状が三角で筆を抜いた後のタッチが好きなのと、色の伸びがよく下地といい感じに馴染んでくれるのが好みで、SAIのマーカーブラシに近いと感じています。
――アシマさんがこれから描きたいモチーフや表現したいものはあれば教えてください。
最近は、実際にカメラで撮ったようなボケ感の表現や、ポートレート的な構図や色合いに惹かれるので、それを突き詰めたいと思っています。コンセプトを作り込んで、ストーリー性や深みを持たせるイラストも魅力的ですが、ぱっと見た時に綺麗だなとか、気持ちいい構図だなと感じるようなわかりやすさも大切だと考えているので、そういう美しさを表現していきたいですね。
――絵を描く上で、影響を受けた作品や憧れているクリエイターはいますか?
カントク先生のイラストにすごく影響を受けています。可愛いキャラクターイラストを描かれる印象が大きいのですが、背景の描き込みや構図の取り方も本当に素晴らしい方なんです。キャラクターの可愛さを描きつつ、ダイナミックな構図と空気感の演出で魅せる作風が大好きで、高校生の頃に初めて買った画集はボロボロになるまで見ました。自分にとってのバイブルのような一冊です。

カラーイラストでキャラクターのいる空間に説得力をもたせるには色彩の統一感が重要なポイント。アシマさんはキャラクター全体に乗算で同じ色の影を乗せてから消しゴムツールで削るように陰影をつくり、そこから各パーツにあわせて影色を調整することで、説得力のある影のトーンを作っている。この影の色彩にオーバーレイやスクリーンによる効果を加えることでイラストの空気感が生まれている。
※動画では8:00からアシマさんが影色を塗っていく作業を見ることができます。
アシマさんのクリエイターズ・ストーリー

『プロジェクトセカイ Championship2024 Autumn powered by ヴァイスシュヴァルツ』大会KV(2024) © SEGA /© Colorful Palette Inc.
© Crypton Future Media, INC. www.piapro.net All rights reserved.
――アシマさんが絵を仕事にしようと思った経緯はどのようなものですか?
デジタルで絵を描き始めた頃から憧れはありましたが、自分の中でイラストレーターという仕事は夢物語みたいな感覚で、大学は美術系でも実用性の高そうなデザイン分野を専攻していました。この道に進もうと思い始めたのは大学卒業のタイミングで、就活がつらくて、現実逃避的に始めた同人活動がすごく楽しかったんですよ。やっぱり自分は絵を描きたいんだと思って、これを仕事にするしかないと決意しました。
――同人活動のほかに、ネットでの活動などはされていたのでしょうか。
デジタルで描き始めた頃から、Twitter(現X)やPixivに絵を投稿していましたが、特に誰かと交流するわけでもなく、1人で黙々と描いては上げる、みたいな感じでした。イベントにサークル参加するようになって、他の絵描きの方と直接会う機会が増えると、どんどん交流も広がっていきました。
――デザインを学ばれていたということですが、同人誌もご自身でデザインされているんですか?
一緒にサークル活動をしているデザイナーの藤宮藍さんに、全体のアートディレクションをお任せしています。同人活動を始めた頃、サークルロゴや装丁をデザイナーさんにお願いする流れがあって。自分も誰かに頼んでみたいと思っていたところに、藤宮さんから「書籍デザインのポートフォリオを作るのにイラストを使わせてほしい」とご相談をいただいたんです。そのご縁で、自分が同人誌のデザインを頼むなら藤宮さんにしようと思ってからのお付き合いです。
――初めて自分の絵が仕事になったときのことは覚えていますか。
高校生の頃に個人の方からの依頼でブログ用のイラストを描いたのが最初でした。学校がバイト禁止だったので、初めて自分の力でお金を稼ぐ経験をして感動したのを覚えています。その時の報酬で買ったlogicool G13は、使わなくなった今でも大切に持っています。

アークナイツ「ポデンコ」通常立ち絵デザイン画(2020)
© HYPERGRYPH © Yostar
――これまでに手がけたお仕事で、特に印象に残っているものはありますか?
大学を卒業して就活を続けながら絵を描いていたのですが、お仕事はもらえているもののあまり状況は進展しないままで。そんな時にYostarの方に声をかけていただいて「アークナイツ」のキャラクターデザインを担当したことが、自分のイラストレーター人生の大きな転機になりました。そこから色々な縁が繋がって新しいお仕事を得たり、「アークナイツ」から自分のファンになってくれた方も沢山いたりするので、デザインを手がけたポデンコとシーンの2人は、自分の中でも特別な存在になっています。
――「アークナイツ」は海外のクリエイターのイラストがハイレベルで驚きますよね。
海外イラストレーターの描く色彩は、美術の教養があってこそ出せるものだと感じています。自分は絵画について体系的に学んでこなかったので、そういう知識を身に着けた状態でイラストレーターとして活動できるのが羨ましくて……。「アークナイツ」のお仕事を続けるのなら、自分も画力を上げないとダメだと思って研究した結果、昔ながらの線画と描いて塗る工程にプラスして、厚塗りで加筆修正する今のハイブリッドなスタイルになりました。
――イラストレーターとして活動する中で、嬉しかったことがあれば教えてください。
ボーカロイドのMVがデジタル絵に興味をもつきっかけだったので、お仕事で初音ミクを描く機会をいただいたのは、すごく嬉しかったですね。『プロジェクトセカイ』のミクの日記念イラストや、『プロジェクトセカイ Championship2024 Autumn』の大会キービジュアルを描くことができたのは、ニコニコ動画にハマっていた中学生当時の自分からは考えられないような出来事です。最近だと「初音ミク JAPAN LIVE TOUR 2025 ~BLOOMING~」の応援イラストとしてポケミクの絵を描いたのも嬉しかったですね。

アークナイツ「シーン」通常立ち絵デザイン画(2021)
© HYPERGRYPH © Yostar
――これからやってみたいお仕事や、挑戦してみたいことはありますか?
イラストレーターとして、商業で画集を出すことと、個展を開催することは実現したい夢としてあります。一緒にサークル活動をしている藤宮藍さんとは、商業の舞台でイラストレーターとデザイナーという肩書で一緒にお仕事ができたらいいね、という話をしているので、いつかいい形で実現したいですね。欲をいえば、大きなコンテンツのメインキャラクターデザインを担当できたらいいなと思っています。
――最近のお仕事について教えてください。
Endorfin.という音楽ユニットが11月に開催するファーストライブのキービジュアルを描かせていただいたのですが、この音楽ユニットの楽曲はこれまでの自分の作風にも大きな影響を与えてくれたものなんです。そういうコンテンツに、作り手として関わることができたのは単純に嬉しいですし、自分を変えてくれたことに対する恩返しのような気持ちで描くことができました。
――最後に、アシマさんにとってペンタブレットとはどのような存在ですか?
大学を卒業してフリーランスになるときや、プロとして技術的により高度なものに挑戦しようとするとき、イラストレーターとしてステップアップするタイミングに合わせて、ペンタブレットも新しいものに変えてきました。今はWacom Cintiq Pro 22を使っていますが、自分の中ではこれまで使ってきたペンタブレットと形は変わっても同じ魂を受け継いでいる、アニメの主人公の成長と合わせて進化する愛機みたいなイメージです。
取材日:2025年7月25日
インタビュー・構成:平岩真輔(Digitalpaint.jp)
画像をクリックすると今回制作した作品をご覧いただけます。
アシマ
新潟県出身のイラストレーター。人気ゲーム『アークナイツ』に登場する「ポデンコ」「シーン」のキャラクターデザインを手がけたことで知られる。『ブルーアーカイブ 青春あんさんぶる Vol.5 補習授業部』CDジャケットイラストや、『プロジェクトセカイ Championship2024 Autumn powered by ヴァイスシュヴァルツ』のキービジュアルなど、キャラクターデザイン・広告イラストを中心に活躍中。
⇒ twitter:@roro046
⇒ 個人Webサイト「flourish」