マンガ家
高河ゆん『LOVELESS』や『佐藤くんと田中さん -The blood highschool』(ともに一迅社)などの作品で知られるマンガ家・高河ゆんさんによる、液晶ペンタブレット「Cintiq 27QHD touch」を使ったライブペインティングを公開!
高河ゆん インタビュー
- ―― 高河さんの子どもの頃について教えてください。
- マンガを読んでいるときに声をかけられると不機嫌になるくらい、それはもうマンガが好きで好きでしょうがなかった子どもでした。実はそれは現在も変わらないんですけど(笑)。いちばん衝撃を受けたのは小学生の頃に読んだ萩尾望都先生の『ポーの一族』で、その流れで少女マンガ三昧の生活を送ることになりました。中学生になると多少視野も広がるので『週刊少年ジャンプ』など男子向けのマンガも読むようになりましたし、また並行してアニメもたくさん見ていましたね。このとき見ていた『銀河旋風ブライガー』『聖闘士星矢』『キャプテン翼』などの作品は同人誌の題材にもしたほどです。
『高河ゆん漫画家30周年記念本 30
――までだと思っていた道は、まだ先に続いている(といいな)』
カバーイラスト
©Yunkouga/Ichijinsha
- ―― 同人誌の執筆が絵を描き始めたきっかけですか?
- いえ、もともと小学生の頃からマンガを描いていたんです。といってもノートに鉛筆で描くようなものでしたが、とにかくたくさんやっていました。特に、熱心にコマ割りをしていました。ですから絵というよりはやっぱりマンガですね。学校の授業で色付きの絵を描くことはありましたが、あくまでも授業の中だけのことでしたし。着彩にしっかり取り組んだのは同人誌がきっかけです。高校の頃に友達に誘われて同人活動を始めたのですが、そこでカラー原稿が必要になったんですよ。特に苦もなくカラーインクに慣れたので、順調に同人活動を行っていくことができました。その調子でバリバリとマンガを描いていたところ出版社から声をかけて頂いて、それでマンガ家としてデビューすることになったという感じです。
- ―― 高河さんの考えるマンガの魅力とはどのようなものでしょうか。
- 絵があり、コマがあり、キャラがいて、構図があって、ストーリーがあって、テンポがある。そしてその全てに自分が関わることができる。しかも紙とペンがあればできるんですから極めてローコストですよね。こんな素晴らしい娯楽は他にないのではないかと私は思います。それを自分で描くことは最高に気持ちいいことなんですが、ほかの人の作品を読むこともとても楽しいことです。ただ、マンガ家としてはほかの人の作品を読むためには強い心が必要ですから、「こんな素晴らしい作品があるなら自分の作品なんて必要ないんじゃないか」というような弱気は、積極的に捨てるようにしています(笑)。
- ―― デジタルでの制作に取り組まれるようになった経緯を教えてください。
- パソコン通信をやっていたので、早期からパソコンを持っていたんですよね。それで、パソコンでプレイするゲームも大好きでよくやっていたんですけど、ゲーム中に見かけるCGの美しさに感動したのがデジタルを始めたきっかけです。特にみつみ美里さんの絵に影響を受け、私もCGをやってみようと思い立ったのですが、実はみつみさんに直接CGの描き方を手ほどきしてもらったんですよ。みつみさんは本当に丁寧に教えてくださって、とても感謝しています。そのことをきっかけに、作業環境を意識的にアナログからデジタルに移行しました。また、自分が誰かにデジタル作業について教えるときも、みつみさんのようにしようと心がけています。
マンガ『悪魔のリドル』
キャラクターデザイン
©Yunkouga/KADOKAWA CORPORATION
- ―― 高河さんが感じるデジタル作業の強みはなんでしょうか。
- まずはなんといっても保存できることですね。私はアナログ時代にけっこう原稿に墨汁やコーヒーをこぼしてダメにしちゃっているんですよ。しかも他の人にやられたりする可能性もある。デジタルではそれがないし、失敗してもすぐにundoできるのがいいですよね。また、原稿の保管がしやすいのもいいですね。たとえば年前の絵をそのまま紙で保存することは難しいじゃないですか。でもデジタルならそれができる。特に私の場合、原稿を無くしがちだったので(笑)、データを誰かが持っていることが期待できるのも地味にありがたいです。それから、色がたくさん使えるのも大事ですね。アナログのときはカラーインクを使っていましたが、これは混色に向きません。ということは、使える色が限られるということですが、デジタルだったら何百色も使うことが可能です。
『電撃大王ジェネシス』Vo.2
ピンナップ
©Yunkouga/KADOKAWA CORPORATION
- ―― イラストを制作する際に注意していることはありますか。
- CGをみつみさんから習って以来「女の子の肌の色を綺麗に塗る」のを大切にしています。具体的には、色味にブラックが入らないように、必ずカラーチャートの最上段から色を取る、といったことです。それから、色のバランスを実際の作業に入る前に全て決めておきます。このイメージが作業中にぶれるようだと失敗した絵になりがちです。無限に色を選べてしまうことで、かえって迷宮入りしてしまうんですよ。また、私はマンガ家ですから、イラストといっても描くモチーフはキャラクター中心です。だから、キャラクターの魅力にこだわります。表情やシルエットがいい感じになるように頭の中で細部まで詰めるんですよ。色と同じで、描いている途中に「これかわいくないかも……」なんて思い始めると暗礁に乗り上げるので、そうならないように詰めておく必要がありますね。
『Summer Moon』
カバーイラスト
©Yunkouga/Ichijinsha
- ―― 現在の制作環境について教えてください。
- 機材は、Windows7のマシンとCintiq 21UXです。ソフトは、線画をCLIP STUDIO PAINTで描き、着色はSAIで行います。たまにPhotoshop CS4を使うこともあります。もともとMacを使っていたんですが、SAIが出たのでWindowsに乗り換えました。Painterっぽい塗りができるのにレイヤーが使えるということで最高だと思ったんです。アシスタントのみんなも大体同じ環境ですが、ペンタブレットはCintiq 13HDを使用していますね。いずれにせよみんな液晶ペンタブレットで作業しています。
- ―― Cintiq 27QHD touchを使ってみた感想はいかがでしたか?
- 液晶ペンタブレットは普段から使用していますので初体験ではないのですが、このCintiqは大きいので作業領域に余裕を持つことができていいですね。これは印象でしかないですけど、描き心地がよくて、ペンの見た目も格好いいので、少ないストレスで作業を進行できるのが嬉しいです。それから、Cintiq 21UXは使っていると結構発熱しちゃうんですけど、こちらの機種は熱くならないんですね。これなら安心して使い続けることができると思います。
『佐藤くんと田中さん-The blood highschool: 2』
カバーイラスト
©Yunkouga/Ichijinsha
- ―― 最後に今後の展望を教えてください。
- 私自身についていえば、一生現役・一生マンガ家でいたいんですよ。それには健康でいることと、そしてマンガを好きであり続けることが必要ですから、そのためには無理をしないようにバランスをとっていこうと考えています。それから、これは単なる希望なのですが、今はイラストが上手い方がいっぱいいらっしゃるので、その方たちにもどんどんマンガに挑戦してもらいたいなあと思っています。
取材日:2015年12月9日
インタビュー・構成:梵天編集部
高河ゆん
繊細な線と研ぎ澄まされた色彩が描き出す中性的なキャラクターの魅力で、デビューから現在に至るまで、読者を魅了し続けているクリエイター。マンガだけに留まらず、小説の装画からキャラクター原案まで、あらゆるジャンルのキャラクター表現で活躍している。代表的なマンガ作品に『LOVELESS』(一迅社)、『アーシアン』(新書館)、『超獣伝説ゲシュタルト』(エニックス)など。キャラクター原案にテレビアニメ『機動戦士ガンダムOO』がある。
⇒Webサイト:
BRAIN PEOPLE YUN KOUGA official website
⇒twitter:@yunk99