マンガ家
霜月かいり『すべてがFになる -THE PERFECT INSIDER-』(講談社)のコミカライズや、『BRAVE10 S』(KADOKAWA/メディアファクトリー)などの作品で知られるマンガ家・霜月かいりさんによる、液晶ペンタブレット「Cintiq 27QHD touch」を使ったライブペインティングを公開!
霜月かいり インタビュー
- ―― 霜月さんが絵と出会ったきっかけは何でしょうか。
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小学生のときに、同じアパートに住んでいた絵描きのお姉さんに絵を教えてもらったことですね。彼女の教え方が上手だったのか、子ども心にとてもうまく描けた気がして、それでイラストが好きになりました。その後、4年生のときにイラストクラブに入ったのですが、そこでよく『北斗の拳』や『CAT’S EYE』のキャラクターを描いたりしていました。兄の影響で『週刊少年ジャンプ』を読んでいて、これらの作品を気に入っていたんですよね。
『BRAVE10 S』第5巻カバーイラスト
©霜月かいり/KADOKAWA メディアファクトリー - ―― 今の「霜月かいり」を作る転機になったような出来事はありますか。
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中学3年生のときに菊地秀行さんの小説「魔界都市」シリーズに出会ったことです。この作品が持つダークで物悲しい世界観に衝撃を受けて、この物語の内容を表現できるような絵を描けるようになりたいと思いました。ただ、そのときすぐに覚醒したというわけではありません。最初はどこに発表するかの宛もないままにイラストを描いていました。
『魔界医師メフィスト』第3巻カバーイラスト
©霜月かいり/KADOKAWA メディアファクトリー - ―― あまり学生時代は熱心に絵を描かれなかったのでしょうか。
- 実は高校のとき美術部に入っていたんですよ。2名しか入部希望者がいなかったのですが、美術に熱心だった担任の先生がわざわざ部を新設してくださって。この先生は、版画を教えている人で、とても美術に詳しかったんです。ここで油画や水彩、それから版画技法のシルクスクリーンなども教えてもらえました。それから「もっといい絵を見ろ」と言われて、クリムトやビアズリーといったアール・ヌーヴォーの芸術家を教えてもらいました。この衝撃はものすごくて、今の私の画風にも繋がっていると思います。ちなみに、この先生にはいまだに版画を習いに行くなどお世話になっています。
- ―― でも、美術の道には進まなかったんですよね。
- そうなんですよ。美術部の活動も、1年生のときはかなり熱心にやっていたんですが、それ以降はバイト三昧の生活になってしまったので、美術を頑張っていたとはとても言えませんね。授業外の時間も、むしろバイクで遊んだり、あと中学時代と同じように陸上部を掛け持ちしていて、それで総体に出たりといった調子でした。 ただ学科がインテリア科だったので、図面を起こす作業は結構やっていて、めぐりめぐって『すべてはFになる』の背景を描く作業などに役立っていたりしていますね。
- ―― 商業作家として本格的に活動されるようになった経緯を教えていただけますか。
- 高校を卒業した後、在宅でもできる仕事をしたいなと思ってマンガを描き始めました。最初は小さな雑誌の賞に作品を投稿することからのスタートだったんですが、そこは受賞するとトーンを10枚くらい景品としてくれたんですよ。トーンって高いじゃないですか。だからうまく受賞できると、その景品を使ってまた作品を描いて投稿できるのが都合よかったんです。
- その調子で色んな賞に応募して、たとえば電撃イラスト大賞で小さな賞をもらったことや、『ウルトラジャンプ』新人賞の最終候補に残ったことがありました。ただ、受賞して即仕事に繋がったわけではないんですよ。 最終的に、よく応募していた『小説リンクス』の担当さんからお電話をもらって、連載中の挿絵や読者ページの扉絵を担当するようになりました。それを続けていたある日、雑誌のマンガページの穴埋めが必要になったことがあって、そこで「描きます」と手を挙げたことが、いちばん最初のマンガの仕事になりまして、その後のマンガ家としてのキャリアにつながっていきました。
- ―― イラストを書くときに気をつけていることは何でしょうか。
- とにかくエロく描くことですね。妖しい雰囲気を出すことが大切です。そうしないと人物に魅力が生じないし、見ている人の目も惹けないと思うんですよね。そのためには、表情に動きを感じさせることが大事だと考えています。エロく描くのが大事だと言いましたが、もちろん、鋭い表情でも笑顔でもよくて、とにかく、その絵を見たらつられて見ている方の表情まで動いてしまうような絵に仕上げたいと思っています。
- ―― デジタル環境で制作するようになった経緯を教えていただけますか。
- 前々から、自分はアナログの色塗りが下手すぎるなと思っていたので、デジタルだったら何でもできるかもしれないという夢を見ていたんですよ(笑)。 それで『MADNESS』に取り組んでいた2004年頃に環境を移行しました。最初はうまくいかなくてアナログに戻ったりもしたんですが、これも塗り方のひとつでしかないんだ、重要なのはイラストの着地点に向かっていくことなんだ、と理解できてからはうまく作業できるようになりました。技術としては、絵を加工できるところや、一発で綺麗な色が出るところなどは本当に素晴らしいです。特に肌色を美しく塗れるのには感動しましたね。
- ―― 現在の制作環境について教えてください。
- Windows7でCLIP STUDIO PAINT PROとPhotoshop CS5を使っています。液晶ペンタブレットはCintiq 21UXですね。もともとはMacを使っていたんですけど、これまでに5台くらい壊してしまっていて、Windowsに変えてからは壊れなくて重宝しています。ペンタブレットについてはもともとFAVO、Intuos2、Intuos4という流れで使っていたのですが、画面を見ながら手元のペンを動かすのに疲れてしまったので(笑)、液晶ペンタブレットに移行しました。
- ―― 今回Cintiq 27QHD touchを使ってみた感想はいかがですか?
- 非常に使いごこちがいいですね。今使っているCintiqと比べて、表面にボタンがなくフラットなので、手をスムーズに動かすことができます。画面もかなり見やすくて、個人的には綺麗で繊細だという印象を持ちました。あとペンの滑りがいいんですよね。それから、長時間作業していても目が疲れないので、それもありがたいです。
- ―― 最後に今後の展望を教えてください。
- 今まで培ってきたスキルを活かしつつ、新しい表現・新しいマンガを描いて、海外の人にも見てもらえようになったら嬉しいと思っています。それから、私はもともとはイラストレーターになりたかったのですが、それは自分が思い描く「完全な絵」を描ける存在のことなんですよ。残念ながら今は、その完全な絵を描ききる能力が自分には無いと思っているので、人生のうちに2枚くらいでいいので、完全な絵を描いてみたいと思っています。
『すべてがFになる -THE PERFECT INSIDER-』
第2巻カバーイラスト
©霜月かいり/講談社
『DEATH EDGE』第4巻カバーイラスト
©霜月かいり/KADOKAWA アスキーメディアワークス
『ナイトメア・エクスプレス』第2巻カバーイラスト
©霜月かいり/講談社
『JOKER REBOOT』
『Wings』2015年10月号表紙イラスト
©霜月かいり/新書館
取材日:2016年1月9日
インタビュー・構成:梵天編集部
霜月かいり
躍動的な女性キャラクターからミステリアスな男性キャラクターまで、端正かつ流麗な筆致で余すところなく表現するクリエイター。戦国ものの作品に定評があり、特に真田十勇士をモチーフとしたマンガ『BRAVE10』(メディアファクトリー)は代表作として後にアニメ化された。ダークな雰囲気を持つ作品に対する思い入れも強く、菊地秀行原作『魔界医師メフィスト』(KADOKAWA)や、森博嗣原作『すべてがFになる』(講談社)のコミカライズも担当している。
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