イラストレーター・コンセプトアーティスト
友野るい
ソフトウェアの可能性を限界まで引き出す卓越した技術と、広大な世界観を一つの画面で表現しきる構成力を兼ね備え、ビジュアルを担当した代表作に『ZERO ESCAPE 刻のジレンマ』(スパイク・チュンソフト)、『EARTH WARS』(ワンオアエイト)などのゲーム作品がある、斬れ味鮮やかなイラストレーター・コンセプトアーティストの友野るいさんによる、液晶ペンタブレット「Cintiq 27QHD touch」を使ったライブペインティングを公開!
友野るい インタビュー
ゲーム『EARTH WARS』メインビジュアル
© oneoreight
――友野さんの少年時代の様子を教えてください。
母親によると、ものが掴めるようになった頃には、鉛筆やクレヨンを握っていたらしいですね。覚えている範囲だと、小学校に上がったくらいに『ドラゴンボール』が流行っていたので、熱心にその模写をしていました。本格的に絵をやり始めたのは高校に入ってからですね。父も兄も美大出身だったので、自分も絵に関係する仕事につくのかなとはぼんやり思っていました。それで、高校1年生から小さな画塾に通い始めました。ただ、受講生が3人しかおらず、受験用の参考作品も少なくてやる気も出ず、サボりがちでしたね。当然本番も上手くいかず、浪人することになりました。
――浪人中はどういう生活をしていらしたんですか?
大手の予備校に入り直しました。そうしたら、それまでと環境が全く違ってびっくりしました。まず日本画科だけでも30人くらいいる。それから多浪生が多くて、みんな鬼のように上手い。自分は石膏デッサンならそれなりに上手いという認識だったんですけど、実際に書いてみたら30人中25位だったんですよ。僕より下位は絵を描いたことが無い人たちで、つまり実質最下位でした。
――逆に奮起して絵の勉強に力が入ったりはしませんでしたか。
そこは真面目にやっていましたね。1日6時間は絵を描いていましたし、私大志望だったので学科の勉強もしていました。なのに、浪人1年目はどこの大学にもひっかかりませんでした。意中の大学が、普段は人物画の課題を出すのにそのときに限って人物以外のモチーフを出したりして、対応できなくてダメでしたね。さすがにやさぐれましたが、先生方にも励まされ、これまでやってきたことをより力を入れて頑張るようにしたおかげか、翌年は無事合格することができました。
「この街は俺たちが守る!」パーソナルワーク
© 友野るい
――念願の美大生活はいかがでしたか?
美術の勉強という点ではかなり苦しみました。入学してすぐに「描きたいものを描け」「光と影で描くな」みたいな課題を出されたんですね。自分はイラストと写実的な受験絵画ばかりやっていたので、どうやってそういう表現をしたらいいかも分からなかったし、いざ自由にやっていいと言われると、何を描いたらいいか分からないという状態になってしまったんですよ。岩絵具などにも触れたんですが、とても素人には扱えるものじゃなくて、表現技術も全然身につかない。そんな感じで4年間を過ごしてしまい、一応完成したと言えるような作品を1枚しか作れずに卒業してしまいました。
――アニメやゲーム的なイラストを本格的に
描き始めたきっかけは何でしょうか?
元を正すと、中学時代に『機動戦士ガンダム』にハマったことがきっかけかもしれないです。関連書籍を買い揃えたり、モビルスーツの名前を暗記したりしていて、今でもメカを描くときには意識したりしますね。それで落描き程度のことはやっていたんですが、何かを完成させるということはしたことがなかった。高校1年生のときに、そんな状況を心配した父がPCを買ってきてくれたんです。
「ドールマスターの一人遊び」パーソナルワーク
© 友野るい
――そのときにデジタル環境が整ったんですか。
そうですね。父がよく飲みにいく店に有名な作家さんがいて、そういう人たちに色々と相談してくれたらしいんですよ。それで情報を収集して、Intuos3とPainterも一緒に揃えてくれました。当時、Painterを使ったイラストレーターといえば寺田克也さんが第一人者だったんですが、彼のイラストテクニックを記した本『ペインタボン!』などは穴が空くほど熟読しました。それからは我流でデジタルをやりこみました。ただあくまでも我流だったので、ショートカットも使わないわ、ブラシもプリセットのものしか使わないわと、ひどいものでしたけどね。
――何かネット上で活動されたりはしていましたか。
自分のウェブサイトを作ってイラストを掲載したりもしていたのですが、お絵かき掲示板でのコミュニケーションがいちばん重要でしたね。特にTOKIYAさんが主宰していた「SKILL UPPER」という掲示板に入り浸っていました。常連のみなさんが神がかったイラストを描く方ばかりで、ハイレベルすぎてとても自分では絵を投稿できなかったんですが、そこで受けた刺激を持ち帰ってイラストを描き、自分のサイトにアップするような形で創作をしていました。
――イラストレーターとして本格的に活動していくきっかけは何でしたか?
大学在学中に自分のウェブサイトを介して仕事のお誘いをいただいて、それがきっかけで現場でデジタルイラストを学ぶことができました。我流でやっていたために停滞していた成長が、一気に促された感じがしましたね。その後、大学は卒業したのですが、就職活動をしたくなかったのでフリーのイラストレーターとして活動をすることにしました。当時はソーシャルゲームが流行していたこともあり、フリーでも仕事をすることができました。また、後に大学の同級生のつてで、ゲーム関連会社に席を置かせてもらうなどの形で仕事をすることもできました。
「一服」パーソナルワーク
© 友野るい
――影響を受けた作家について教えてください。
僕の聖書と言うべきマンガが『AKIRA』『寄生獣』『風の谷のナウシカ』の3つなのですが、中でも宮﨑駿さんは、この歳になってこそよりその凄さが分かるようになりました。宮崎さんは考えているレベルがとても深く、ひとつの事象を決定する際に、それに付随する内容を複数同時に決めているんですよ。それから、言葉を使わないで情報を伝えるのが上手い。彼が「個性よりも共感能力を上げた方がいいんじゃない?」という趣旨の発言をしていた記憶があるんですが、本当に頷かされました。
――他に、制作する上で気をつけていることは
ありますか。
キャラクターの見た目やポーズだけで勝負しようとすると、格好いいとか、萌えるとか、リビドーに関わる要素だけになってしまいます。その場限りの感情ばかり刺激することに特化していては先行きが無いと思ったので、それ以外の価値を創出したいと考えています。その鍵が世界観です。もちろん自分が設定できれば一番おもしろいんですが、仮にそうでなくても、与えられた世界観にコミットしてキャラクターを描き出すという仕事には、作り出したキャラクターに奥行きを与えるという点で意義があると思っていますし、普段からそういうスタンスで仕事をしていきたいと思っています。
『ZERO ESCAPE 刻のジレンマ』日本版パッケージ
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――現在の制作環境はどのようなものですか。
OSはWindows 7で、ソフトウェアはPhotoshop CS5です。これは大学生だった頃に結構お金をかけて投資して用意した環境で、最初は16GBだったメモリを32GBにするなどの細かな換装をしながら、今も同じマシンを使用しています。初期はMacでPainterという環境でしたが、仕事を始めたときに切り替えました。ペンタブレットはIntuos3が壊れた際に、Intuos5 mediumにして、現在もこれを使用しています。
――今回Cintiq 27QHD touchを使ってみた感想は
いかがでしたか?
何年か前に家電屋さんでちょっと触ってみたことがあったくらいでしたので、液晶ペンタブレットで描くというのは今回がほとんど初体験だったんですが、高機能なデバイスにはつきものであるような発熱などもなく、長時間の作業もぐっと楽になるのではないかと感じました。また画面が大きいという点には実際に絵画を描くこととの類似点もありました。画面の角度をイーゼルのように目線と平行にできたり、快適な角度に調整できますし、またペンの使い方についてもアナログ的な自由度の高さが感じられ、直感的な作業が可能な点に楽しさを覚えました。
――最後に今後の展望を教えてください。
最近はコンセプトアーティストと名乗るようにしました。これは、単なる絵ではなく、世界観やストーリーを意識した絵作りをしていきたいという意思表明です。もちろん、物語作りという点では自分は本当にアマチュアで、まだまだ修行が必要だと痛感しています。ただ、イラストレーターとして考えたときも、自分の中で達成感がある絵というのはやはり「世界観を表現した絵」を描けたときなんですね。だから、これからもその道を追究していきたいと考えています。
取材日:2016年10月11日
インタビュー・構成:村上裕一(梵天)
画像をクリックすると今回制作した作品をご覧いただけます。
友野るい
デジタル作画ソフトウェアの可能性を限界まで引き出す圧倒的な技術力と、キャラクターや舞台の背景に潜む"世界観"を取り出して画面に再配置する構成力を誇る、気鋭の若きイラストレーターにしてアーティスト。臨場感や質感、奥行きなどの表現には特に卓越したものがあり、ビジュアルを担当した代表作品である『ZERO ESCAPE 刻のジレンマ』(スパイク・チュンソフト)や『EARTH WARS』(ワンオアエイト)などでは、そのリアルで繊細な造形力が細部まで光っている。