マンガ家
中条亮
迸る創作意欲をペンに込め、時に激しく時に艷やかに読者に向けて語りかけてくるキャラクターたちの姿を、圧倒的な情熱と豊かな表現力のもとに描き出す――代表作『ドージン活動、はじめました!?』(KADOKAWA)を連載中のマンガ家・中条亮さんによる、液晶ペンタブレット「Cintiq 27QHD touch」を使ったライブペインティングを公開!
Drawing with Wacom 068 / 中条亮 インタビュー

『ドージン活動、はじめました!?』第1巻カバーイラスト
2017 © Akira Nakajo / KADOKAWA CORPORATION
――中条さんが絵に触れることになったきっかけを
教えてください。
小さいときの記憶はあまりないんですが、母によると「紙とペンを渡しておけば、どこであろうと時間を潰していてくれる、手のかからない子」だったそうです。マンガも大好きで、小学生の頃から読んでいましたし、コマを割ってマンガを描いてみたりもしていました。記憶ではそんなにインドアな感じではなかったと思うんですが、小学校では絵が描ける子という扱いでした。
――好きだったり、影響を受けたりした作品はあり
ますか。
『うる星やつら』『らんま1/2』『犬夜叉』など、高橋留美子先生の作品全部です。なかでも『犬夜叉』に関してはとにかく模写しました。『犬夜叉』で描かれた妖怪のイメージや、ロマンを感じる演出が本当に好きだったんです。それから『HUNTER☓HUNTER』。ある時期から『週刊少年ジャンプ』を読むようになったのですが、そのときに出会いまして、別格の内容にほれ込みました。この作品を通じて二次創作というものを知るようになったので、私の人生に与えた影響は計り知れないです。あとは、帰国するたびに同人誌を買いあさっていました。
――いま「帰国」という話がありましたが、海外に滞在
されていたんですか?
そうなんです。父の仕事の都合でタイに住んでいました。最初は日本人学校で、学年が上がったらインターナショナルスクールに移りました。タイの現地語はあまり身につかなかったので不便なところはありましたが、アジア圏は意外と英語が通じるし、インターナショナルスクールでは英語を使っていたので、なんとかやり過ごすことができました。ただ、『週刊少年ジャンプ』をすぐに読めなかったことは悔しかったですね。タイにも紀伊國屋書店などはあったのですが、雑誌の入荷にはどうしても時間差があったんです。

『COMIC it』vol.7 カバーイラスト
2017 © Akira Nakajo / KADOKAWA CORPORATION
――マンガやイラスト関連の活動はどのようにされて
いたんですか?
その頃はネット中心ですね。プロの作家でなくても、イラストなどの活動をしていたら自分のウェブサイトを持っているのがふつうだったので、私も作りまして、そこを中心にイラストやマンガを制作してはアップしていました。Web拍手などを通じて感想をもらえるのが楽しくて夢中になりましたね。それからお絵かきチャット! 交流といえばこれが中心で、友だちとよくやっていました。
――精力的に同人活動をなされるようになったのはい
つ頃でしょうか?
帰国してからです。同人活動をするために日本に帰ってきたといっても過言ではないかもしれません(笑)。帰国してから日本の大学にも通いましたが、もはや同人活動のあいまに学校に通っていたといった方が正確ですね。同人誌即売会が毎月に近い頻度で開催されていたので、ほぼ毎月一冊は新刊を出していました。また、もっとも大きなイベントとなる夏冬のコミケでは数冊の新刊を出していたので、マンガを描いていない期間はないといってもいいくらいでした。
――すごいですね。そこまでモチベーションを保てた
秘訣はなんなのでしょうか。また制作はお一人でされ
ていたんですか?
それはもう「好きだから」のひとことに尽きます。特に私は、同人活動は二次創作だけをひたすらやっていましたので、題材となる作品への愛情がなければそもそも本を作れなかったと思います。基本的にサークルは自分ひとりでやっていて、作画やお話作りも完全に自分だけでやっていました。同人活動が人生の中心でしたね。ただ、まわりの同人作家さんもみんなそうしていたので、自分だけが特殊なことをしているという感じはありませんでした。
――中条さんが商業デビューされた経緯を教えてください。
『理系男子。』という企画のCDドラマで、ジャケットを担当させていただいたのが最初の商業仕事になります。私の同人誌を読んだ担当者の方が「絵がかわいい」ということで、メールしてくださったのがきっかけですね。本当にうれしくて光栄でした。その後、コミカライズなどもやらせていただいた中で今の担当編集者さんと出会い、『ドージン活動、はじめました!?』の連載につながりました。

『ドージン活動、はじめました!?』第4巻カバーイラスト
2017 © Akira Nakajo / KADOKAWA CORPORATION
――連載企画を立ち上げる際にはどのような苦労があ
りましたか?
私はそれまで二次創作か原作つきのマンガ制作しかしたことがなかったので、完全にオリジナルというのが最初の壁でしたね。どんな題材なら描けそうかということをあらためて考えてみたんですが、なかなか絞り切れなかったんです。そこで発想を切り替えて「なにを読みたいか」を考えてみたところ、同人活動をテーマにした作品を読んでみたいということに気づきました。ただ、自分で描くには題材が自分自身に近すぎて、生々しすぎるのではないかとも思いました。それでもこの題材を選択したのは、いちばんネタが思い浮かぶ題材だったということや、ぜひ伝えたいと思った体験などもあって、描きたいという気持ちが高まっていったからです。
――作品を制作する上で気をつけていることはありま
すか?
画力面での表現力が足りていないので反省しきりなのですが、せめて読みやすさだけは意識していきたいと思っています。たとえば吹き出しやコマ割を整理して、どんな出来事が起きているかがわかりやすい構図にするといったことを心がけています。それから、ついつい説明したくてセリフ量が多くなってしまいがちなのですが、かえってわかりにくくなるという担当さんのアドバイスもあり、積極的に文章量は削るように気をつけています。
――現在の制作環境と、これまでの環境の変遷を教え
てください。
タイ時代からFavoを持っていて、ネット上のツールでお絵かきする以外だと、紙に線画を書いてそれをスキャンして、Photoshopで色塗りしていました。帰国してすぐにIntuos3とComicStudioを導入しました。そののち、周りの人の勧めもあってCintiq 21UXに乗り換えました。液晶ペンタブレットの使い心地はとってもよくて、Cintiq 24HDが出たときには迷わず購入して現在に至っています。ソフトウェアはいまだにComicStudioとPhotoshop CS5を使用しています。

『COMIC it』vol.14 カバーイラスト
2017 © Akira Nakajo / KADOKAWA CORPORATION
――今回Cintiq 27QHD touchを使ってみた感想はいかが
でしたか?
欲しいなあ……。画面が綺麗で、長時間見ていてもそんなに疲れないし、目がちかちかしないです。また表面がとてもフラットになっていて、気が散らなくなりました。溝がなくなって、埃がたまらなくなったのはとてもうれしいです。画面も大きいに越したことはないですね。角度の調整も細かくできて、自宅でしっかりセッティングしたらかなり使いやすそうです。それからExpressKey Remoteが手に持ったり設置したりと自由に使うことができて、外部のコントローラーを探したり操作したりするために画面から目を離さなくてすむようになったのも、便利だと感じました。
―― 最後に今後の展望を教えてください。
もうすぐ『ドージン活動、はじめました!?』の5巻が発売するので、よろしくお願いします! この作品では、好きなことを好きなだけ頑張ることの美しさや、そこから生まれるパワーの凄さを描きたいと考えています。これは私にとって人生をどう捉えるかというテーマに近いものがあって、だから、特に同人活動に興味があるわけではないという方にもぜひ読んでもらえたら嬉しいです。こういう表現を続けていくためにも、これからも頑張っていきたいと思っています。
取材日:2016年12月6日
インタビュー・構成:村上裕一(梵天)
画像をクリックすると今回制作した作品をご覧いただけます。
中条亮
怜悧な男性から可憐な女子まで、繊細な筆致によって美しく表現する気鋭のマンガ家。とりわけ受け身の主人公キャラを巧みに描き出す筆致に定評がある。同人活動を中心にキャリアを重ね、『理系男子。』(フロンティアワークス)のCDジャケットイラストで商業デビュー。自身の同人活動経験なども参考に、迸る創作意欲の圧倒的なパワーと、そこに打ち込んだ青春の美しさをモチーフにした代表作『ドージン活動、はじめました!?』(KADOKAWA)がCOMIC itにて連載中。