マンガ家
星屑七号
丸みを帯びたタッチで描き出される数々の美少女と、伝奇ノベル風のハードなストーリーラインを組み合わせた作風が特徴で、『文具少女ののの』(スクウェア・エニックス)を最新作とするマンガ家・星屑七号さんによる、液晶ペンタブレット「Cintiq 27QHD touch」を使ったライブペインティングを公開!
Drawing with Wacom 069 / 星屑七号 インタビュー

『回転る賢者のシュライブヴァーレ』第8話扉イラスト
© 2017 SQUARE ENIX CO., LTD.
――星屑七号さんはどういう子ども時代を過ごして
いらしたのでしょうか。
小学生時代はよくいる絵が得意な子どもでした。中学生になると、当時人気だった『るろうに剣心』にあこがれ、部員がほとんどいなかった剣道部に入部しました。ところがそのわずかな部員が全国レベルの実力者で、のちに有望な選手がどんどん入部してきます。そんな未来を知らずに15人くらいの新入生が入部しましたが、3ヶ月後には3人しか残りませんでした。僕は怖くて辞めたいとすら言えなかった。それで、毎日吐くような思いをしながら三年間を過ごしたところ、周りの部員から「根性があるね」と認めてもらえるようになりました。関東大会や全国大会にも選手として出場することができました。
――すごい環境での部活動だったのですね。剣道は
続けられたのですか?
はい。ただ、全国レベルの厳しさで続けていくのはきつかったので、高校進学では「そこまで競技志向ではない剣道部がある高校」という条件で受験先を探し、入学しました。剣道部に入るとすぐにレギュラーになり、2年生になる頃にはキャプテンを任されました。
それはよかったのですが、校内の風紀が悪かったんですよ。僕も最初は大人しくしていたのですが、体育会系の生活をしてきたため、だんだんひどい仕打ちに対して腹が立ってきて反抗したんです。そうしたら1年生の間で英雄扱い(笑)になり、同学年のあらゆる層から一目置かれるようになってしまった。

『回転る賢者のシュライブヴァーレ』第15話扉イラスト
© 2017 SQUARE ENIX CO., LTD.
――腕っ節の強さが、意図せず評価されてしまったと。
不本意でしたよ。僕は中学生の頃から美少女ゲームをプレイしているようなオタクだったんです。ところが学校ではオタクに対する差別意識がとても強くて、教室でライトノベルを読むことも許されなさそうな環境でした。だからオタク趣味を隠していたんですが、そうすると武闘派なイメージばかりが目立ってしまい、中学からのオタク友だちにさえ避けられるようになりました。孤独感も募り、自分の素行も悪くなり、成績も右肩下がり。最終的には、この環境がつらいということを泣きながら親に相談するところまでいきました。そして学校を辞めるという決断をします。でも、親も状況を理解してくれての退学だったので、そこは不幸中の幸いでした。
――つらかったですね。高校には入りなおされたの
でしょうか。
通信制の高校に編入しました。ゼロから自分を見つめなおしてみたときに、「絵をやってみたい」と思ったんです。そこで、ゲームの原画家になるんだという決意をして、その目標に役立ちそうなカリキュラムのある高校を探しました。この高校はマンガ家や声優のコースもあって、もともとオタクだった自分には「これだ!」と思えました。実際、そこでは友だちにも恵まれました。ただ、あくまでも高校だったので、大して絵の技術は身につきませんでした。そこで卒業後に専門学校に進学することにしました。
――専門学校ではイラストの技術を得られたのでしょうか?
はい。でも、正直、授業の内容は性に合わなかったです。ただ、そこに講師としていらした深崎暮人さんとの出会いが決定的でした。僕は深崎さんのことを前から知っていたので、すごい人が来てくれたと喜びました。そうしたら深崎さんも自分をかわいがってくれるようになり、同人イベントなどにも連れていってもらえるようになりました。その後、マンツーマンでデジタルイラストの技術を教わる機会も得ました。おかげでイラストのいろはを学べましたし、また自分が同人活動を始めるきっかけにもなりました。

2013年年賀状イラスト
――深崎さんとの出会いが転機になったのですね。
まさしくそうです。深崎さんには、二次創作に嫌気が差して、このまま活動をやっていってもいいのかという弱音を吐いたときに、当時まだ甘い考えだった自分を強烈に叱っていただいたことがあります。なんのために絵を描いているんだということを根本的に考え直さざるを得ないほどの、ものすごい衝撃を受けました。そこでまた原点に立ち返り、自分の好きなものを描こうということで始めたのが『食人女子高生探偵』というオリジナル作品です。作品を頒布し始めてすぐに大手ブログで紹介されて、創作同人としてはかなり知られるようになりました。そして、3ヶ月後には、複数の出版社から商業作品の依頼を受けることになりました。
――急に商業活動が始まったのですね。
新人賞も受賞していない素人が、いきなり月で100ページもの原稿を描くことになるわけですから、とても大変でした。僕は単行本3冊同時発売という華々しいデビューをしたのですが、その見た目の話題性ほどには売り上げがついてこなかったり、お世話になった担当者が会社をやめてしまったり、いちばん連載をバリバリこなしたい時期に家族が病気になってしまって、仕事どころではなくなったりなど、いろいろなことが重なりました。ただ、そのときできる全力を投じて仕事をしてきました。そのような経験もあり、最新作の『文具少女ののの』では、文具業界の人と自分でコネクションを作って、表参道でコラボカフェを開いたりするなど、露出を増やす努力をしました。商業ならではの工夫もいろいろしてきたと思います。
――影響を受けた作家・作品について教えてください。
まずは深崎先生をとても尊敬しています。ゲームだと、TYPE-MOONの『月姫』『Fate/Stay night』、竜騎士07さんの『ひぐらしのなく頃に』、それから虚淵玄さんのシナリオ作品が好きです。マンガでは岡本倫さんの『エルフェンリート』や、鬼頭莫宏さんの『なるたる』ですね。人間の闇にスポットを当てて、そこをえぐりだすことで死生観を浮かび上がらせる作品が好きで、自分としてもそういうものを描きたいと思っています。それからイラストレーターとしては植田亮さんに憧れています。植田さんの絵は、人と背景の色合いが絶妙に調和していて、いつかあのような絵を描いてみたいと日々思っていました。Drawing with Wacomには植田さんも登場されていますが、植田さんと同じ企画に出られるのはとても光栄です。

『文具少女ののの』第10話扉イラスト
© 2017 SQUARE ENIX CO., LTD.
――現在の制作環境と、これまでの環境の変遷を教え
てください。
専門学校に入ってからパソコンと板型ペンタブレットを調達しました。その後、深崎先生からSAIの使い方を教わり、以後ずっと使っています。液晶ペンタブレットを導入したのは2011年ぐらいのことで、周囲の同人作家がこぞって液晶ペンタブレットが素晴らしいと言い始めたのです。それで興味を持っていろいろと試してみたところ、これなら移行できそうだということでCintiq 12WXを導入しました。とても丈夫で、現在も使用しております。
――今回Cintiq 27QHD touchを使ってみた感想はいか
がでしたか?
所持しているペンタブレットとはかなりサイズ差がありましたが、意外とスムーズに使えるという感想を持ちました。画面が大きい分、姿勢がよくなる点が体によさそうです。画面が小さいとどうしても細部を確認するために液晶に顔を寄せる必要があるのですが、この製品の場合はそういうことをしなくて済みました。また、普段は手首に負担がかかっているので痛くなりがちなのですが、今回は腕を大きく使って描くことができたので、そうなりませんでした。画板に描くような感じがあって、ちょっとした画家気分も味わえますね。
―― 最後に今後の展望を教えてください。
いったん商業活動から離れて、充電期間を設けようと思っています。僕がほかの方の作品を見ていていいなあと思うのは、その作家が本当に好きでその作品を描いていると感じられたときなんですよね。だから自分もそうしたいと思っていて、そのためには商業的な制約を外して好き勝手にやることも必要だと感じています。そういうことで、当面は同人活動で作品を展開していくつもりですが、そこで生み出した作品をもとにまた商業の舞台に乗り込んでやろうと思っています。
取材日:2017年2月7日
インタビュー・構成:村上裕一(梵天)
画像をクリックすると今回制作した作品をご覧いただけます。
星屑七号
丸みを帯びたタッチや柔らかい色彩から生み出される美少女たちと、それと裏腹に、作中人物の心の奥底をえぐるようなハードでシリアスな物語。星屑七号は、この2つの要素を組み合わせながら、伝奇ノベル風の物語を追求しつづけるマンガ家である。オリジナル作品『食人女子高生探偵』で出版社の目に止まり、『1月のプリュヴィオーズ』(集英社)『回転る賢者のシュライブヴァーレ』(スクウェア・エニックス)の二作品同時発売にてメジャーデビューした。最新作に『文具少女ののの』(スクウェア・エニックス)がある。