イラストレーター
村カルキ
独特なきらめきのもとに描かれる美しい光や水の表現が特徴的で、そこから生み出された幻想的な世界観の込められた風景は、読者を不意に訪れた"旅人"にしてしまう。装画に『銃魔大戦 怠謀連理』(KADOKAWA)、『クロの戦記』(オーバーラップ)などがある新進気鋭のイラストレーター・村カルキさんによる、液晶ペンタブレット「Cintiq 27QHD touch」を使ったライブペインティングを公開!
Drawing with Wacom 069 / 村カルキ インタビュー

『銃魔大戦 怠謀連理』第一巻カバーイラスト
© KADOKAWA
――村カルキさんの子ども時代について教えてください。
アニメ好きの姉の影響を強く受けて育ちました。私自身もアニメが好きで、特に思い入れがあるのは、メカのデザインや絵柄に衝撃を受けた『天元突破グレンラガン』、主人公のヒールっぽさや豪快な戦闘シーンに引き込まれた『ゴクドーくん漫遊記』などです。それからマンガの話になりますが、『王ドロボウJING』は、背景の圧倒的な描き込みやそこに表現された世界観に魅了されました。また、村田雄介先生作画の『アイシールド21』は光の表現にとても感銘を受けて、高校時代はずっと模写をしていました。いまイラストを制作する上でも、こういった作品から受けた影響がどこかしらあるように思います。
――イラストに本格的に取り組むようになったのはいつ頃でしょうか?
絵を描くという点では、それこそ小学校に入る前から、毎日必ずなにかしらの絵を描くという生活を送っていました。始めたのはこれまた姉の影響だったのですが、この習慣はいまでも続いています。……というと、小さいころからすごく絵がうまかったのではないかと誤解されるのですが、全然そんなことはありませんでした。振り返ってみると、自分の中の思い込みが上達を邪魔していましたね。

プライベートワーク
© 村カルキ
――毎日絵を描く習慣があるというのはすごいですね。
どのような思い込みがあったのでしょう?
ほかの人が「きれいだ」「かっこいい」と評価しているものを、あまりそうだと思えなかったんです。空想的なものが好きで、特にファンタジー的な風景にとても惹かれました。ただ、こういう斜に構えた態度では視野が広がらないし、自分の絵を客観的に見ることもできていなかったんだと思います。
――どうやって克服されましたか?
他の絵描きさんのこだわりがこもった絵を通じて視野を広げました。具体例としてはビル街の風景などですね。これにこだわりがある絵描きの方の絵を見て、感動したことがあったんです。照明の色ひとつとってもいろいろと違うことや、明かりがあるからには人がいるはずだというような情報、ビルの形自体の細かい差異など、これまで私が軽視していた要素がいくつもあって、そういったものに気づくと世界の見え方が変わるように思いました。また、そういったものを表現しようとする志にも感銘を受けました。
――職業としてクリエイターを意識されたのは
いつですか?
高校生の頃です。中学生までバスケ部だったのですが、なかなか大変で、その反動でRPGにハマったんです。それからかなり多くのゲームで遊んだのですが、特に『ブレス オブ ファイア』が特に好きでした。その結果、こういったRPG作品のイメージボード(世界観を表現するイラスト)を描く職業につきたい、ゲーム会社に就職したいと考えるようになり、そのために東京の専門学校に進学しました。
――学校ではどういうことを学ばれたのでしょうか?
デジタルイラストの基礎から、キャラクターデザイン、パッケージ制作の演習といったカリキュラムを受けました。ただ、私はデジタルがどうにも性に合わず、ほぼアナログの透明水彩で乗り切ってしまいました。透明水彩だとランダムな表現が比較的簡単にできますが、デジタルで同じことをしようとすると当時の私の技量では全然できなくて、そのことがどうにも受け入れられなかったんです。思い込みが激しいですよね(笑)。もっと素直な気持ちで学ぶべきでした。

『クロの戦記I』カバーイラスト
© サイトウアユム/オーバーラップ
――いまはデジタルで作業されていると思うのですが、
どうやって技術を会得したのでしょうか。
専門学校を卒業したものの、アナログしかできない状態では、ほとんど就職先がありませんでした。そこで、アルバイトをしながら、卒業後も専門学校の先生に相談をしつつ、ポートフォリオの作り直しなどを進めていました。そんな中、専門学校にイラスト制作会社の方が来ていて、そこで先生が私のことを紹介してくれたことをきっかけに就職することができました。
それから3年間ほどはがむしゃらに働きました。とても仕事量が多く、それをこなすために工夫を重ね、絵を早く描く技術が身につく中で余計なこだわりみたいなものもなくなっていきました。会社ではいろいろな画風の絵を描くことが求められ、自分の得意なものや好みのものしか描けないということでは仕事にならなかったんです。まして「デジタルが嫌いだからアナログで」なんていう学生時代のときのような甘えが通じるはずもなく、デジタルでの作業の仕方については、とにかく必死で覚えることになりました。
――イラストレーターとしての転機はなんでしたか?
雑誌『SS』(スモールエス)に投稿をしていたんですが、その『SS』から仕事をいただけたことです。ひとつがイラストで、もうひとつが背景講座だったのですが、ずっと投稿していた雑誌から仕事をもらえたのは本当に嬉しかったです。家族や友人もすごくよろこんでくれました。このことがきっかけで、自分の絵でも仕事ができるんだという感触を得られたのと同時に、自分の絵で仕事をしたいという気持ちが生まれ、早くフリーランスになりたいと思うようになり、実際に独立しました。
――村さんの制作環境について教えてください。
専門学校に入るにあたって、WindowsのPCと、Bamboo、そしてPhotoshopを購入しました。その後、会社に入ったので、自宅も同じ設備にしようということでIntuos4を導入しました。その後、ペンタブレットの故障をきっかけに、水色のカラーリングがかわいいという理由でIntuos Comicを導入しまして、いまに至っています。制作ソフトはずっとPhotoshopをメインに使用しておりまして、どうしても線画が必要なときにはCLIP STUDIO PAINTを使用しています。
――今回使用したCintiq 27QHD touchの使い心地はいかがでしたか?
これまで液晶ペンタブレットの導入を考えたことがありませんでしたが、今回初めて使ってみてとても素晴らしかったので、導入を検討し始めました。まず、モニターの発色がとてもいいですね。私は青色が好きで、自分のイラストでもよく使っておりこだわりがあるのですが、この青色がとても鮮やかに出ているのが素敵です。ペンの筆圧感知性能も優れていて、強弱がいつもよりもしっかりと表現できました。また、ExpressKey Remoteも触らせてもらいましたが、私の作業の仕方上、面倒で使っていなかった回転ツールを、ワンタッチで自由に操作できてとっても便利だと感じました。使いこなせたら、いろいろな工程がかなり楽になりそうです。

プライベートワーク
© 村カルキ
――最後に、今後の展望をお願いします。
フリーのイラストレーターとしては修行中だと思っておりますので、書籍のカバーからTCGのイラストまで、どんな仕事でもご依頼いただければとても嬉しいです。また、夢だったイメージボードの仕事も担当させていただいたのですが、今後もどんどんやっていきたいと思っています。これまでは自分の得意分野としてファンタジーものを手がけていましたが、近年は現代を舞台にした世界観に関心があります。資料を収集しつつ、写実的なところからSF的なところまでいろいろな表現ができるよう模索中ですので、こういった仕事にもどんどん挑戦してみたいです。
取材日:2017年3月15日
インタビュー・構成:村上裕一(梵天)
画像をクリックすると今回制作した作品をご覧いただけます。
村カルキ
美しい異世界の様子をありありと表現する、幻想的な風景描写を得意とするイラストレーター。特に光や水の表現にこだわりがあり、村が選んだ題材となる風景は、現実以上に魅力的なものとして描き出される。装画を担当した作品に『銃魔大戦 怠謀連理』(KADOKAWA)、『クロの戦記』(オーバーラップ)があるほか、TCG『ラクエンロジック』などでカードイラストも担当。ソーシャルゲームでイメージボードの制作に抜擢されたほか、各種ゲームにて背景画の制作も行っている。