イラストレーター
jbstyle.
世界最速(スピードスター)の異名を持ち、Illustratorの鉛筆ツールとマウスという唯一無二の手法で数々のアートを生み出してきた。マウスをペンに持ち替えた後もその筆致は進化を止めず、『鉄拳7』(バンダイナムコエンターテインメント)のアートワークや、デジタルアートバトル"LIMITS"の世界ランキング1位など、目覚ましい活躍を見せ続けるイラストレーターjbstyle.さんによる、液晶ペンタブレット「Cintiq 27QHD touch」を使ったライブペインティングを公開!
Drawing with Wacom 073 / jbstyle. インタビュー
楽曲『HARUKA』ジャケットイラスト
(Samurai Apartment LOVE'S Yuriko Tiger)
© jbstyle
――jbstyle.さんはずっと名古屋を拠点にしていらっしゃる
んですよね。
鹿児島で生まれ、その後すぐに名古屋に移って以来、ずっとそんな感じですね。と言っても、実際には日本中を飛び回っているので、家に落ち着いているわけではないんですよ。むしろ、自分がいまどこにいるか、自分でもわからないくらい動き回りたいと思っています。その点で、名古屋はどこに移動するにも都合がよい立地ですね。
――なぜそういうライフスタイルなのでしょうか。
絵描きというものは家にひきこもってずっと絵を描いている――そういうイメージを覆したいんです。僕のように落ち着きなく動き回っている絵描きもいるって、面白くないですか? そういう印象を広げていきたいんです。単純に目立ちたがりということもありますが(笑)。
――絵に本腰を入れるようになったのはいつ頃からですか?
きっかけはごく幼少の頃で、祖父の家で、祖父が描いた祖母の油絵を見たことですね。あくまでもきっかけでしかないのですが、大きなインスピレーションを受けました。
その後はマンガなどをたくさん読む中で、勝手にのめりこんで絵を描くようになりました。小学校から高校まで、常に学校では一番絵が上手かったんじゃないかな。僕が好きだったのは『ドラゴンボール』『聖闘士星矢』『北斗の拳』といった『週刊少年ジャンプ』のマンガで、ずっと模写して練習していました。そういう絵を描けばすぐにクラスのヒーローになれて、それはとても嬉しかったし、友達を作るきっかけにもなりました。絵を描くことは僕にとってコミュニケーションの方法だったんです。
――絵を仕事にするようになった経緯について教えてください。
もともと絵が上手いという自負があったので、早くプロになるべく高校を中退して、専門学校に通いつつ、当時はマンガ家になりたかったので、マンガの持ち込みや投稿を始めます。
ところがこれがことごとく通らない。成果が出ないので目先を変えて、大手のゲーム会社に就職しようと思ったのですが、これもうまくいかなかった。こうして自分の絵を全否定されたような気持ちになり、絵を描くのをやめて、数年フラフラしていました。
ただ、いつまでもそういう生活はできないので、働かなければならなくなったときに、あるデザイン事務所に拾ってもらいました。
――まずはデザイナーになったということでしょうか。
そうですね。そこで初めてデザインというものを知り、そしてPCに触れました。MacでのIllustratorの使い方を教えてもらったんです。チラシなどの広告物をよく作っていて、絵を描くよりも楽しかったほどです。一方で、事細かに指定された絵を描くのは気が進みませんでしたね。でも、絵描きになるという夢が敗れた人間がこんな感じの仕事に落ち着くのはよくあることなんだろうなとも思っていました。
そんな感じで年月が経ち、三十路くらいの頃に転機が来ました。事務所では責任のある役職にもついていましたが、自分の絵だけでどこまでいけるか試したいという気持ちを抑えられなくなったんです。だから、絵描きとしては何のキャリアもないまま、残務を整理した2006年の1月20日に退職しました。翌日にカフェで独立記念パーティーをして、そこで「二度と就職をしない」という誓いを立てました(笑)。そうしないとすぐに逃げちゃうかと思ったからです。でも、絵には根拠のない自信があったから、やっていけるとも思っていました。
プライベートワーク
© jbstyle
――独立早々から活動は順調だったのでしょうか。
最初の2年は食うにも困りましたね。仕事の依頼はあったんですが、自分のカラーに合わないものは断っていたんです。ところが、そんなわがままも2年続けるとこだわりになり、僕のカラーに沿った仕事が頂けるようになりました。もちろん、黙って待っていたわけではなくて、それこそ名刺交換会などに顔を出すようなことも継続的にしていたんです。仕事をする上では人間関係やネットワークがなによりも大事なので、自分が出演するセミナーや飲み会での出会いは非常に大切にしています。
――jbstyle.さんはIllustratorの鉛筆ツールのみで描画する
という、
極めて特殊なスタイルで制作をされていますが、
どこからこういう方法を編み出したのでしょうか。
この描き方が生まれた経緯には、そもそも僕がマウスだけでデザイン制作をしていた事情があります。深夜になるのがざらな勤務状況で、なんとかして作業を効率化したいと思って工程を見直したところ、紙に書くプロセスが邪魔でした。そこでフルデジタルにするためにマウスと鉛筆ツールでの描画を始めました。最初はうまくいかなかったんですが、最終的に作業が速くなりました。鉛筆ツールの動作が面白かったので飽きずに続けられたこともよかったです。海外をめぐってわかりましたが、この手法は世界的にも珍しいようですね。
――日本チャンピオンと世界ランキング1位という、jbstyle.さん
の活躍がめざましいデジタルアートバトルイベント"LIMITS"に
ついての、感想や思い入れを教えてください。
もともと僕は、2013年からL.A.Bという名古屋のアートバトルイベントを主催していて、その流れからLIMITSに招待されました。関西で自分をアピールする機会はあまりなかったので嬉しかったですね。で、出てみたら後輩に負けたんです。これには、液晶ペンタブレットとPhotoshopという、自分が全く使わない環境だったという事情がさすがに大きすぎました。めちゃくちゃ悔しかったので、液晶ペンタブレットでillustratorを使う練習をしました。この環境が現在の制作環境につながっています。
大会の思い入れとしては、世界大会に触れざるを得ないです。準決勝で、台湾出身のLOIZAくんと当たったのですが、彼は僕のファンで、僕と戦えるだけで本当に嬉しいと言ってくれました。ならば、その気持ちに応えるためには絶対に負けるわけにはいかないなということで、真っ黒ベースのキャンバスを白色で削っていくという、決勝用のアイディアを使って対戦したんです。
その勝利の代償か、決勝ではアオガチョウに負けてしまいました。後悔はしていませんが、これは日本王者になってから初めての敗北だったので、とてつもなく悔しかったです。次は必ず勝ちます。間違いありません。
プライベートワーク
© jbstyle
――Cintiq 27QHD touchの感想を教えてください。
これが無ければ僕はここにいない、というようなアイテムですね。LIMITSをきっかけに液晶ペンタブレットに触れましたが、LIMITSでの活動も含めてそれはもう使い込みました。実は、LIMITSで優勝したときの副賞でCintiq 27QHD touchをもらって、以後の愛機となったんです。性能面では、ペンと液晶の反応がとてもよくて、ささっとペンを走らせたときの繊細さやスピード感がしっかりと表現されるところがたいへん気に入っており、重宝しています。
――今回の制作イラストはどういうコンセプトで描かれ
ましたか?
Drawing with Wacomのライブペインティング動画は、国内だけでなく海外の視聴者も多いと聞きましたので、自分の得意な女性モチーフにしました。デザインコンセプトは、甲冑・サイバー・縞々というごちゃごちゃなものを、侍というテーマでまとめ上げるということです。こうしたらカッコいいんじゃないかという直感に従っているので、要素の選択に深い理由はないんですが、単にリアルな考証に従えばいい絵になるわけではないですね。また、何かをごちゃごちゃと足す場合、それ以上に要素を引き算するということが、全体のバランスを整える上で重要になります。今回、モノクロに赤1色でまとめあげたのはそういう配慮からのものです。色を乗せすぎると絵がダメになることが多いんですよ。線の量や色味の全体的バランスは僕にとって最重要ポイントなので、常に注意を払っています。
――最後に、今後の展望をお願いします。
人に飽きられないように、毎月爆弾的な出し物を用意するように心がけています。ただそれは一朝一夕には出来ないので、年単位の戦略で動いています。ということで来年の展望なんですが(笑)、海外で遊びたいと思っていて、そのためにいま英語を勉強しています。そこで自分のアイテムの販売網を広げられたり、新たなパートナーとめぐり逢えたら嬉しいですね。もっとも「頑張っています!」という強調は重苦しいので、トーンとしては適当です。適当に、絵で遊び、人と繋がり、楽しさを共有しながら、それをビジネスにして、そしてまた新しい楽しみを生み出したいと思っています。
取材日:2017年5月16日
インタビュー・構成:村上裕一(梵天)
画像をクリックすると今回制作した作品をご覧いただけます。
jbstyle.
世界最速(スピードスター)の異名を持ち、Illustratorの鉛筆ツールとマウスという唯一無二の手法で数々のアートを生み出してきたイラストレーター。画材を液晶ペンタブレットへと移行した後もその筆致は進化を止めず、速度と美を追求したライブパフォーマンスは海外でも賞賛を集めている。名古屋を拠点としているが、その活動範囲はグローバルであり、世界各地のApplestoreを舞台としたライブパフォーマンスツアーも成功している。『鉄拳7』(バンダイナムコエンターテインメント)のアートワークほか実績多数。デジタルアートバトル"LIMITS"の世界ランキング1位(2017年2月時点)。