アニメーター
斉藤健吾
『SSSS.GRIDMAN』『ダーリン・イン・ザ・フランキス』『キズナイーバー』など話題作に参加している注目のアニメーター斉藤健吾さんによる「Wacom Cintiq Pro 24」を使ったライブペインティングを公開!(2018年12月12日撮影)
Drawing with Wacom 091 / 斉藤健吾 インタビュー
斉藤健吾さんのペンタブレット・ヒストリー
――斉藤さんがデジタルで絵を描き始めたのは?
高校生の頃にライトノベルのイラストみたいな絵を描きたいと思って、FAVO(CTE-440)を買って、友達とお絵描きチャットとかをしていました。高校を卒業して専門学校に通っている頃にSAIのβ版が流行り出して、色塗りに使っていたのを覚えています。
「サバ女子」LINEスタンプイラスト
©斉藤健吾
――液晶ペンタブレットを使うようになったのはいつ頃ですか。
アニメーターになってしばらくしてから、液晶ペンタブレットのほうが絵が上手く描けるんじゃないかと思ってWacom Cintiq 12WXを買ったのですが、上手くはならなかった(笑)。でも、色塗りの技術はアップした気がしますね。その後、少しだけSONYのVAIO DUO13を使ってから、Wacom Cintiq13HDを導入して、止め絵とか簡単なカットに使ってみたりしました。
――現在の作画環境はどのようなものですか?
デジタル作画の仕事が増えてきたのをきっかけにWacom Cintiq Pro 16を買って、MacBook Pro(2017)に繋いで使っています。ツールはCLIPSTUDIO PAINTがメインです。自宅では、専用の仕事机ではなくダイニングでやっているので、作業が終わったらその都度、PCも液晶ペンタブレットも片づけて、同じ場所でご飯を食べています(笑)。置きっぱなしにするとすごく散らかるので、毎回片づけるほうがいいかなと……その点でも、Wacom Cintiq Pro 16は軽くて取り回しもよく、以前の機種より接続もシンプルなので便利ですね。
自宅のダイニングテーブルにMacBook Pro(15-inch,2017)とWacom Cintiq Pro 16を置いて使っている。PCのモニターには資料などを表示する。
机上にはiPad Pro(12inch)と愛用のカメラFUJIFILIM X-H1も。
――今回、Wacom Cintiq Pro 24を使って描かれた感想はいかがですか。
描画面にいい感じの摩擦があって、表面のガラスがしっかりしているのですごく描きやすいですね。自分はペン先が沈みこまない硬い描き味の方が好きなんですけれど、Wacom Pro Pen2は描き味もよく、細かい描写もしやすいです。画面サイズも、Wacom Cintiq Pro 16では拡大してキャラクターの顔を描くときに片方の目しか見えないのに、24インチの大画面だと両方の目が見えるので、バランスをとりながら描けるのがいいですね。画面の発色もよくて、違和感がありません。
斉藤健吾さんのクリエイティブ・スタイル
――今回描いていただいたイラストはセルタッチですが、[塗りつぶし]を使わずブラシでどんどん塗り進めていく描き方ですね。
昔からバケツ(塗りつぶし)は、塗った後に色を変えたりする時くらいでほとんど使わないですね。基本はラクガキなので、モットーとしては時間をかけずに描くという感じで。ブラシ塗りのほうが、バケツ塗りのように線を閉じる修正をしなくていいぶん速く描けるんです。
Drawing with Wacom用イラスト設定画
©斉藤健吾
――ブラシも比較的基本的なものを使われていました。
線画は、CLIPSTUDIO PAINTの[シャープペンシル]とか、[濃い鉛筆]とかで筆圧の設定を少し硬めにするくらいです。色を塗る時に使っているのは[Gペン]を太くしたもので、水彩などはあまり使わないですね。思った部分に色が乗らないので、ちょっとタッチを入れたりしたい時だけ。写真の上にキャラクターを描く時とか、色味を統一させたい時に、絵全体にグラデーションをかけてオーバレイさせたりはします。
――レイヤーの数も少なめですね。
ラフとクリンナップ、ペン入れと色塗りくらいでほとんど分けないですね。普段のラクガキだとラフからいきなりペン入れなのでさらに少ないです。色塗りも最初に下塗りしてから、パーツ毎に範囲選択して影をつけていく感じです。影もざっくりとポイントでつけていくみたいな。うるさくなるのでハイライトもあまり入れません。素材感や質感は「しわ」や「影」の入り方で「柔らかい」「硬い」みたいなところが表現されるので、描こうと思ったときにまず資料を調べる様にしています。絵を描く上では調べることが半分くらいを占めているかもしれませんね。
キャラクターの顔で最も重要なパーツ「目」。
作品により描き方も変わるが、斉藤さんは奥行き感、透け感のある瞳を描くよう意識している。
瞳や光彩の位置関係で、目の表情や見え方が変わってくるので、可愛くなるバランスを意識して描くのが大切とのこと。
(動画では11:50あたりから斉藤さんが瞳を描き込む工程を見ることができます)
――Twitterなどでも斉藤さんの描く女の子のイラストが評判です。可愛く描くポイントはありますか?
たしかに、自分でも可愛いと思います。この前も『SSSS.GRIDMAN』の版権イラストを描いていて、「とんでもないものを産み出してしまった……」って(笑)。キャラクターを描く時には、何を見せたいか、どの部分を見せるかを意識してポーズや表情を考えているんです。ポーズや服装にリアリティがあるほうが、存在としての「生」っぽさが出るので、日頃からTLで見かけるような女の子の自撮り写真を模写したり、服装の感じを研究したりしていますね。
――最近ではアニメの現場でもデジタル作画が増えていますが、アナログとデジタルで描き方に変化はありましたか?
2017年ごろから徐々にデジタルの仕事が増えてきて、ここ最近は8割くらいフルデジタルになっています。鉛筆の場合は何となく薄い線で描いてみたりするんですけれど、デジタルの場合は頭の中で一度、はっきりした線を決めてから画面に描き込むようなアプローチなので、迷い線が少なくなりました。カットの受け渡しなどは、社内のサーバーにアップロードするだけなので楽ですね。ただ、デジタルで総作画監督をやった時に、上がってきたカットのデータのどこに何が入っているかわからないくらいフォルダ分けされていたりしたので、フォルダ名の統一や、線を描くブラシの太さみたいなルールを最初に決めるのが大切だと痛感しました。
斉藤健吾さんのクリエイターズ・ストーリー
『リトルウィッチアカデミア』月刊ニュータイプ2017年3月号版権イラスト
©2017 TRIGGER/吉成曜/「リトルウィッチアカデミア」製作委員会
――斉藤さんがアニメーターになられた経緯を教えてください。
父親が趣味で油絵をやっていて、自分も小学生の頃からよく絵を描いていたんです。中学、高校でも授業中はずっと絵を描いていて、美術部でもないのに美術室に入り浸って、先生からデッサンを教えてもらったりしていました。中学の頃から将来は消防士になるつもりでいたんですけれど、高校の頃に『トップをねらえ2!』(2004年)を観て衝撃を受け、アニメに関わる仕事がしたいと思うようになったんです。自分が得意なのは絵を描くことだったので、専門学校で2年間、アニメーターの勉強をして、アニメ制作会社に入ることができました。
――そうしてアニメーターとしてのお仕事を始められたんですね。
それが、上京して1年半くらい動画をやっていたんですけれど、厳しくて辞めてしまったんです(笑)。その後、しばらく郵便配達のバイトをしていたんですが、またアニメをやりたいと思って。制作進行をしている後輩に、動画の仕事があればやらせて欲しいと連絡して、フリーでアニメの仕事を再開しました。自宅の外にある洗濯機の中にカット袋を入れておいて制作さんに回収してもらっていたので、そこに電話番号と名前を書いて「仕事があればください」みたいなこともしていましたね。
『PP33 -Power Plant No.33-』キャラクターデザイン設定
©nihon animator mihonichi LLP.
――最近は主にトリガーでお仕事をされていますね。
アニメミライ(若手アニメーター育成プロジェクト)で『アルモニ』(2014年)に参加した流れで、『キルラキル』(2013年)の現場に入って、そこからずっとトリガーで仕事をするようになりました。同期の半田(修平)さんや米山(舞)さんもいて、居心地も良かったんです。『キルラキル』の現場では「理屈ではなく、かっこよければいい」ということを学びましたね。第2原画でしたが、月に70カットくらいこなしていたので、すごく頼りにしてもらえて。自分の居場所を見つけられた気がしました。
――アニメ(ーター)見本市の『PP33 -POWER PLANT No.33-』(2015年)では初のキャラクターデザインも手掛けています。
『アルモニ』で吉浦康祐監督の作品に参加していた繋がりと、今もお世話になっているアルバクロウの稲垣(亮祐)さんがプロデュースする作品ということで参加しました。『PP33』のキャラクターデザインは、田中将賀さんの『あの日見た花の名前を僕たちはまだ知らない』の作監集を参考にしながら描いていましたが、後日、吉浦監督のデビュー10周年記念同人誌で、田中さんが『PP33』のキャラを描いてくれて。『ダーリン・イン・ザ・フランキス』(2018年)に参加した時も、田中さんの絵を描けるのがすごく嬉しかったですね。
――これまでで特に印象に残っている現場はありますか?
『キズナイーバー』(2016年)は厳しくも大変な仕事でしたが、すしおさんから色々なことを教わって鍛えられました。米山さんがキャラクターデザインをしていたんですけど、同年代のアニメーターの中でも、絵を見た時に「この人にはかなわない」と思ったのは米山さんが初めてですね。
――最近では『SSSS.GRIDMAN』(2018年)が話題となって、斉藤さんがTwitterにアップする絵にも注目が集まりました。
Twitterに絵をアップするのは『キルラキル』の頃からやっていたんですけれど、『SSSS.GRIDMAN』の時はもう何を描いてもバズる状態で。それだけ観てくれるファンが多いんだと感じて嬉しかったですね。現場も、雨宮(哲)監督の希望で若いスタッフが多くてやりやすかったですね。宮島(直樹)さんと一緒に後輩の子達を飲みに連れて行って盛り上げたりしました。熱い現場で、よく喧嘩もしましたけれど、どこかで何かが止まっているということがなくて、すごく流れがよかったのが印象に残っています。
オリジナルサイクルジャージデザイン画
©斉藤健吾
――これから先、やってみたいと思っていることはありますか?
アニメに限らず、デザイン関係の仕事をやってみたいですね。最近、オリジナルでサイクルウェアを作ってみたらすごく面白くて。予想外に好評で、入金の確認と発送のリストを作るがめちゃくちゃ大変なんですけれど(笑)、そういう「どうすれば売れるのか」みたいなプロデュース的なことを考えるのも楽しいんです。日々、色々なものに影響を受けているので、面白いことができれば、アニメーターに限らなくてもいいんじゃないかという部分はありますね。
――ロードバイクやカメラなどのガジェットもお好きなんですね。
ガジェット、特にカメラは大好きです。よく半田さんと一緒に中野のカメラ屋に行って、あれこれ話しています。レンズの知識もアニメーターの仕事に直結してくるので、興味深いです。今はFUJIFILMのX-H1を使っていますが、単焦点レンズで足を使って撮ったほうが面白いですね。ロードバイクのイベントには望遠レンズを持っていって撮影して、それを写真集にしてみたりするのも楽しいです。
――最後に、斉藤さんにとって液晶ペンタブレットとはどのような存在か教えてください。
最高のガジェットですね。Wacom Cintiq Proになってからデザインもすごく洗練されてカッコいいので、使わなくても置いておきたい(笑)。「鉛筆と紙の描き味でなければ」という人もいますけれど、必ずしもそれを再現する必要はなくて、デジタルにはデジタルの描き味があると思うんですよ。今は性能的にも、スマートな線が描けるようになっているので、満足しています。
取材日:2018年12月12日
インタビュー・構成:平岩真輔(Digitalpaint.jp)
画像をクリックすると今回制作した作品をご覧いただけます。
斉藤健吾
アニメーター。アミューズメントメディア総合学院大阪校を経て、2008年より動画としてのキャリアをスタート。若手アニメーター育成プロジェクト「アニメミライ」で『リトルウィッチアカデミア』に若手原画として参加して以降、『キルラキル』などトリガー制作の作品で活躍する様になり、『異能バトルは異世界の中で』『ニンジャスレイヤーフロムアニメイシヨン』『キズナイーバー』等、数々の作品で各話の作画監督を任される。アニメ(-ター)見本市『PP33-Power Plant N0.33-』では自身初となるキャラクターデザインも担当した。2018年秋クールの注目作『SSSS.GRIDMAN』では第1話で作画監督、第4話と第6話で総作画監督を担当し、作品のファンをはじめ広く注目を集めている。マルチメディアクリエイターチーム「アルバクロウ」所属。