イラストレーター
U10
セガのアーケードゲーム「CHUNITHM」(チュウニズム)」シリーズや英国のファッションブランド「Vinti Andrews(ヴィンティアンドリュース)」とのコラボなど、お洒落なファッションの女の子イラストで知られるイラストレーターU10さんによる「Wacom Cintiq Pro 24」を使ったライブペインティングを公開!(2019年4月9日撮影)
Drawing with Wacom 095/ U10 インタビュー
U10さんのペンタブレット・ヒストリー

プライベートワーク(2018)
©U10
――U10さんがデジタルで絵を描き始められたのはいつ頃ですか。
もともとコピックやカラーインクで好きなキャラクターの絵を描いていたりしたんですけれど、大学の頃に周りでデジタルで描くのが流行り出して、友達も色々便利だと言うので、量販店でIntuos2を買って使い始めたんです。アナログだと一発勝負だったことが手軽にできるので、気負わず描けるというのが動機としては大きいですね。始めた頃は手元と画面が離れているのに馴染めず、どうしてもAdobe Photoshop CS2でスムーズな線が描けなかったので、アナログで線画まで描いてスキャンして塗っていました。
――そこからフルデジタルで描かれるようになったのは?
Intuos4に買い替えてからです。すごくスムーズに描けて筆圧感知も繊細になり、ソフト的にもSAIを使うようになって、線画だけSAIで塗りをPhotoshopでやるようになりました。そこからしばらくIntuos4を使っていたんですが、だんだん液晶ペンタブレットを使う絵描きさんが増えてきて、Cintiq 22HDを買った友人から「描きやすい」と感想を聞かされたり、複数の人からアナログでやっている人なら絶対に受け入れられるはずと勧められたこともあって、Cintiq 13HDを買ったんです。
――液晶ペンタブレットにして、作業的には変化がありましたか。
板型のペンタブレットでは、ペン先のストロークと、画面上のストロークの長さが違うことに違和感があったので、液晶ペンタブレットになってアンドゥの回数も減ってだいぶ作業スピードが上がりました。キャンバスの回転も、手元で描いているものをそのまま回せて、感覚のギャップがないのでCintiqは本当にありがたいデバイスでしたね。プライベートだとキャラクターの立ち絵を描くことが多いので、Cintiq 13HDを縦にして使っていました。

同人誌『U10 folio 4.0』(2018)表紙イラスト
©U10
――現在の作業環境はどのようなものか教えてください。
去年の夏頃からWacom MobileStudio Pro 16(Core i5/256GB)を使い始めました。自宅で絵を描く以外にも、職場で販促物のデザインをしていたので、持ち運びしたいというのが前提にあり、redjuiceさんや岸田メルさんのレビューを見て、取り回しが良さそうだなと思ったのが決め手になりましたね。Windows OS内蔵なので、普段からこれ1台でデスクトップPCは使わなくなりました。作画ツールは、ここ2年くらいは線画から塗りまでCLIP STUDIO PAINT PROを使っています。
――Wacom Pro Pen 2の描き心地はどうでしょう。
筆圧感知がすごくいいですね。使っていてまったく不満がないです。Bの鉛筆でコピー用紙に描いているくらいの感触が欲しくて、Intuosの時はペンタブレットに紙を貼っていたりして、Wacom MobileStudio Proでもフィルムを貼ればいいんじゃないのかと思っていたんですけれど、ペンと画面の間に1枚挟む感じが自分には合わなくて。いろいろ組み合わせを試してみた結果、ハードフェルト芯に落ち着きました。
――今回、Wacom Cintiq Pro 24を使って描いてみた感想はいかがですか。
すごく使い勝手がよかったです。大画面でも、普段の癖で一定の範囲しか使わない気がしていましたけれど、ぜんぜんそんなことなくて。キャンバスの拡大縮小や移動をする必要がなくて、スムーズに描けるので作業効率が上がりそうです。画面が小さいとどうしても隠れてしまう部分があるので、バランスがとりづらいんです。そのためにわざわざ表示サイズを変えて引きで見る手間がないのがすごくいいですね。

Wacom MobileStudio Pro 16(Core i5/SDD 256GB)を自宅と職場で持ち運んで使っている。
奥のディスプレイは元々使っていたデスクトップPCに接続されているEIZOのFlexScan EV2436W。
右上のアームスタンドに取り付けたiPad Pro(10inch)は、作業中のBGM代わりに映画を流したりするほか、資料写真を表示したり、出先でアイデアを描き留めたりするのに使っている。
U10さんのクリエイティブ・スタイル
――普段イラストを描くときのワークフローはどのような感じですか。
まずラフをざっくり描いて、粗いブラシの線から少しずつ細かい線へと、何段階か下描きを重ねていきます。プライベートのファッションイラストだとほぼ立ち絵ですが、仕事で描く時はポージングで悩んだりしますね。線画が完成したらパーツ毎に塗り分けのレイヤーを作って、配色を決めます。実際に塗り進めるうちに違う色に変えたりもするので、塗り分けはざっくりですね。あまり色数を使わない作風なので、基本的にモノトーンで始めて、後から差し色を入れるというのがいつものパターンです。
――U10さんのイラストはキャラクターの服装がお洒落で、ファッション性が高いところに惹かれます。
ファッション系のイラストは、雑誌に載っているモデルさんの様なイメージで、キャラクターに服を着せていく感じで描いているんです。キャラも服も両方見て欲しいので、どちらか一方だけが主役にならないように、色合いやデフォルメ加減を考えています。ボーダーや水玉のような柄が布の折れ目で曲がっていなかったりすると気持ち悪いので、必ず自分の筆で起こすようにして、テクスチャや素材そのものを張り付けたりすることはないですね。絵の中で服も際立たせたいので、そこで手を抜かずに、人物と同じくらい愛情をもって描きたいんです。

同人誌『U10 folio 3.0』(2015)表紙イラスト
©U10
――キャラクターに着せる服のイメージは普段からストックしているんですか?
ファッション雑誌やストリート、最近だとTwitterやInstagramで目にして面白いな、スタイリッシュだなと思ったものの写真やスクリーンショットを資料として貯め込んでおく感じです。ハイブランドのコレクションもすごく面白いので、よくショーの動画を観ています。海外のファッション雑誌にも面白い材料がいっぱい転がっているんですよ。デザインを考える時は、ストックしたイメージを切り貼りして絵の中に詰め込んでいくのですが、自分内ルールとして、資料を使う時はモチーフを観察せずに、パッとみて面白いと思ったニュアンスで描くようにしています。そのまま描くと写実的になっていくので、自分が好む絵のスタイルに合わないんですよね。
――ご自身のWebサイトのタイトルも「fashionsnap-2D」ですが、ファッション雑誌のスナップ写真の様に、イラストのコーディネートを眺めるのも楽しいです。
二次元でファッションスナップをやるという、まさに自分の創作スタイルですね。コーディネートで面白いのは、3次元だと気持ち悪いんじゃないかという組み合わせでも、2次元のイラストだと意外と調和が取れたりするので、すごく好き勝手にできるんです。狙ってではないですが、そういうコーディネートが描けたらいいなと常日頃から思っています。
――今回、描いていただいたコーディネートのポイントは?
最近、流行しているジャケットの肩をずらして着るスタイルがマイブームなので、それを描いてみました。あとは、ウェストポーチを前にかけるスタイルもよく見るので、その2点ですね。全体は青と緑系で、ウェストポーチの差し色は最後まで考えていたんですけれど、モノクロだと少し寂しいなと思ってオレンジにしました。髪型はどこにでもいそうな雰囲気の茶色い髪ですね。
――U10さんの塗りは、色が激しく主張しない淡いトーンでまとめつつ、全体としては光っているような不思議なキラキラ感がありますね。
仕上げの最後に多少、オーバーレイをかけています。色のグラデーションもパーツ毎にかけているので、塗り分けはベタっとしていますが、平坦には見えないようにしています。影もパーツ毎に入れているので、よく見るとグラデーションや影がパーツとパーツの間でズレていたりするのですが、それは面白さとして残しています。光源はあまり意識していなくて、キャラクターと服の両方を目立たせようと思った時に、ちゃんと影を入れると見せたい部分に影が落ちてしまうことが多々あるので、ファッション雑誌の撮影でライトを当てるように、光源を複数にして影を後ろにやってしまおうという考えで描いています。

U10さんはファッション雑誌のスナップ撮影の様なイメージで、光源は1方向でなく複数ある感じで影をつけているとのこと。
塗り分けするパーツ毎にレイヤーを分けてあるので、影を乗せる時はベースとなる色のレイヤーでクリッピングして塗る。
仕上げのエアブラシによる部分グラデーションやオーバーレイも効果的だ。
U10さんのクリエイターズ・ストーリー

同人CD「JUNKO」アートワーク(2015)
©HACHISU All rights reserved.
――U10さんは絵やファッションについて専門的に学ばれていたのでしょうか。
もともと水彩画が好きで、大学は美術系の勉強がしたくて岡山大学の美術教育課程に進みました。でも、当時興味を持っていた日本画の専攻がなかったので陶芸の方に進んで、現在も陶芸関係の仕事をしています。よく意外に思われますけど、美術系の学校にいれば、絵は趣味でも続けられると思っていたし、そのおかげでずっと描き続けられているので、自分としてはよかったのかなと。
――最初はアナログで絵を描いていたとのことですが、どのようなものを描いていましたか。
最初は、ゲームのキャラクターやアニメのロボットみたいな好きなものの絵を描いていました。高校の頃に『センチメンタルグラフティ』(1998年)というゲームでイラストレーターの甲斐智久さんを知り、こんな可愛い絵を描く人がいるんだと衝撃を受けて、そこから甲斐さんが使っていたカラーインクやコピックなどのアナログ画材をそろえて本格的にキャラクターイラストを描くようになりました。
――雑誌投稿などはされていたんですか?
投稿とかはせずに友達と見せ合うくらいで、完全に趣味の領域でした。同人文化に触れたのも遅くて、初音ミクが流行り始めた頃に、ネットで仲良くしていた絵描きさんの本にゲストで一枚描かせてもらったのをきっかけにボーカロイドを描く様になって、ピアプロやpixivで絵を公開し始めたのが第一歩ですね。そのあたりから、イラストで描く女の子に可愛い服を着せたくて、ファッションにも興味を持つようになったんです。自分の絵を動画やCDのジャケットに使わせてほしいというアプローチもいただくようになり、創作が楽しくなりましたね。
――それ以前はネットでは活動されてなかったんですか?
アニメーターの吉田健一さんがWebサイトでお絵描き掲示板を運営していて、そこで絵を描いたりはしていました。あとは、無料ホームページの「ジオシティーズ」に、少しだけ創作イラストを載せた自分のサイトも作ってTINAMIに登録していた記憶があります。ネットの活動では、初音ミクの絵を描き始めたのと同じ頃にPerfumeにはまり始めたことも大きいかもしれませんね。当時、mixiのPerfumeコミュでファンアートを描くのが流行っていて、そこで描いたPerfume絵をいろんな人が見てくれたんです。その内にだんだんお仕事の依頼も頂くようになりました。

Vinti Andrews s/s14 womanswear(2013)
©U10/ Vinti Andrews
――これまでのお仕事の中で、特に印象に残っているものはありますか。
やはり2013年秋に開催されたパリ・ファッションウィーク(パリコレ)で、イギリスのブランド「Vinti Andrews(ヴィンティアンドリュース)」とのコラボイラストを描いたことですね。元々、Vinti Andrewsの服をモチーフに描いた絵をpixivに公開していたら、メールで依頼されたんです。絵にする服のイメージはデザイン画や作りかけの写真で送られてきましたが、それ以外はコーディネート用に既存の靴などアイテムの指定があるくらいで。キャラクターや最終的な匙加減は自分に任せてもらえたので、難しいけれどやりがいがある仕事でした。先方から提示されるコーディネートがミスマッチに思えても、絵に起こしてみるとすごくかっこいいんです。この時の経験で、イラストレーターとして自分のやりたい方向性が決まりましたね。
――U10さんがこれから挑戦したいことなどがあれば、教えてください。
とにかくキャラクターを描きたいので、キャラクターデザインの仕事をやってみたいですね。服飾系でアパレルとのコラボや、アイドルの衣装デザインなんかもやれたらいいなと思っています。いまは兼業イラストレーターなので、ここ2~3年はあまり絵を描くことに時間を割けずにいましたが、もっと本格的に絵の仕事をするために、近いうちにフリーになるつもりなんです。これを機に色々なお仕事に挑戦したいと思っているので、よろしくお願いします!
――最後に、U10さんにとってペンタブレットとはどのような存在か教えてください。
Intuosの頃から、ペンタブレットは「無かったら趣味も生活も成り立たないパートナー」ですね。液晶ペンタブレットもどんどん取り回しが良くなっていて、ますます肌身離さず使えるようになっていくと思うので、今後のバージョンアップが楽しみです!
取材日:2019年4月9日
インタビュー・構成:平岩真輔(Digitalpaint.jp)
画像をクリックすると今回制作した作品をご覧いただけます。
U10(ゆーと)
兵庫県出身。岡山大学教育学部・美術教育課程を卒業後、陶芸のインストラクターの傍ら週末イラストレーターとして、ソーシャルゲーム『乖離性ミリオンアーサー』(スクウェア・エニックス)やアーケードゲーム『CHUNISM』(セガ)などでイラストやキャラクターデザインを手掛けている。ファッション性の高い女の子キャラクターイラストで知られ、2013年秋に開催されたパリ・ファッションウィーク(パリ・コレクション)ではイギリスのファッションブランド「Vinti Andrews(ヴィンティアンドリュース)」とのコラボイラストが同ブランドのプロモーションに使われるなど、そのセンスは海外からも高く評価されている。