『イノサンRougeルージュ』坂本眞一さんの特別インタビュー!
「グランドジャンプ」(集英社)にて連載中の『イノサンRougeルージュ』。圧倒的な緻密さ、繊細さを描き出す絵は、漫画という領域を凌駕し、もはやアート作品とも言える。これらを描き出すのが漫画家、坂本眞一さん。今回、Cintiq 24HDからWacom Cintiq Pro 32へ乗り換え、CLIP STUDIO PAINT EXとともにフルデジタル環境で描かれているその作品が生みだされる現場でお話を伺ってきました。
『イノサン』よりフルデジタルへ移行されたとのことですが、デジタル制作に変えていかがでしょうか?
それまでの作品はアナログ7割、デジタル3割でした。気に入って使っていたアナログのペン先が手に入らなくなってしまい、細い線が引けなくなり、『イノサン』から完全にデジタルになりました。Cintiq 24HDとCLIP STUDIO PAINT EX、そして左手ツールのTab-Mate Controllerを使って描いています。ショートカットはすべてペンのサイドスイッチとTab-Mate Controllerに設定しています。
デジタル制作に変えられて何か変化はありましたか?
道具の劣化がなく、デジタルの方が変化が少なくて安心して仕事ができますね。また、デジタルになってのメリットは、マテリアル(素材)を作り置いて使うことができたり、やり直すことができたりとたくさんあります。中でもデッサンを修正できるようになったのはとても大きいです。アナログ原稿ではデッサンに失敗すると切り貼りするしかなかったので、当時は、切って貼ってとやっていると、目とか足とかが原稿のまわりに散らばっていて(苦笑)。デジタルではそうした修正が簡単にできるのがいいですね。
その分、納得できるまで絵に向き合える。
まるで終わらない戦いに挑むような果てしない気持ちでもありますが、どこまでも納得できる表現を追求していく過程はとてもワクワクします。もちろんとことん絵と向き合う覚悟が必要になるのですが、思い通りに達成できた時の喜びは、これまでにない新しい世界を知ることにもなり、とても楽しいです。
たくさんの素材のコレクションがあるようですが、どのように活用されているのでしょうか。
紙や服など、キャラクター別に素材を登録して整理しています。「あのキャラクターどうだったかな?」と確認する時も便利ですね。ただ、スタンプみたいに使ってしまうと安っぽい絵になってしまうので、それぞれのシーンに合うように描き足したり描き直したり。なので、新しく描くよりも時間がかかってしまうこともありますね。
また、表情なども迷った時はいったん描いた表情を保存しておきます。そのうえで新しく表情を描いて、どちらがいいか並べて考えたりします。これもデジタルならではの利点ですね。
今回、さらに大きなWacom Cintiq Pro 32を使っていただいていますが、使い心地はいかがでしょうか?
漫画はコマで描きますが、ページ全体を見ながら描いているので、この距離感で全体が見渡せる大きさはとてもいいですね。スペックもぐんと上がったとのことで、それが筆圧によるものなのか、視差が軽減したためなのかはわからないですが、すぐに作業に没頭できました。
画面を回転させたり、距離を置いてみたりして描いているので、遠い距離から見たほうが確認しやすいんです。アナログの時は自分の前に鏡を置いて、そこに原稿を映してチェックしていました。その意味でもこの大きさはとてもいいですね。
Wacom Pro Pen 2の描き心地はいかがですか?
ペンが滑らかになった気がします。アナログではないんだけれど、デジタルなのに、線にうるおい、瑞々しさがあるというか、感情にのせて線が引ける感じです。
アナログのペンの時は、イレギュラーな線が描けたりすることがあって楽しかったのですが、Wacom Pro Pen 2は手の力をダイレクトに感じ取り、すんなり、滑らかに力が吸い込まれて伝わっているような感覚でペンと手の一体感を感じます。ここまで違うのか…!ということを実感しています。これまで、機械と自分の間に合った壁がなくなったような感じです。
より繊細な表現ができるようになったことで、感じられることを教えてください。
描くときは何本か引いた線のうち、1本を選ぶように本物の線を探して描いていきます。一方で線にうたがいを持ってもいて…、線をそのまま引きたくないんです。「目に見えるものに実際は線なんかない」と思っているのでどうやって線を引き算していくか、と。
だから、自分の作画では描いた線を細く削って消していくことも多いです。人間の凹凸や影など、線で拾いあげて表現をしています。漫画は白と黒の世界ですが、細い線で滑らかに立体感を描き上げていく感覚は水彩画のようでとても楽しいです。CLIP STUDIO PAINT にして、より線の表現力が増した気がしますし、ブラシのカスタマイズは特にしていないので、だからこそ筆圧が繊細に出ることはとても重要です。
Wacom Pro Pen 2は手の動きにきちんとついてきてくれるので、ペンを抜く時の感覚がとてもいいですね。髪の毛を描くときなど、末端までつながった線が描け、自分の筆圧に合わせたグラデーションになる感覚がします。
デジタルの良さは活用しながらも、一つひとつを積み重ねていくことで命の躍動感を表現できると話す坂本眞一さん。背筋をピンと伸ばしたまま、Wacom Pro Pen 3Dと左手に持ったTab-Mate Controllerを操り、真正面に画面を見据えて描かれていく『イノサンRougeルージュ』の世界はまもなくクライマックスを迎えます。その世界観を大判のデジタルインクジェットプリントで展示されるアート展、そしてミュージカルへとその世界を拡大し、魅惑の幅をさらに拡大していきます。
『イノサンRougeルージュ』
フランス革命の“闇”の立役者・死刑執行人サンソンを描く歴史大河『イノサン』――。正義の番人でありながら「死神」と呼ばれる過酷な職業に、兄シャルルと妹マリーはいかに立ち向かったか!?
物語は、遂に人類が「自由」と「平等」を手にする世界史的事件の「革命」編に突入…。クライマックスをむかえる。集英社グランドジャンプ連載中。
坂本眞一
マンガ誌「グランドジャンプ」(集英社刊)で『イノサンRougeルージュ』連載中。『孤高の人』が第14回文化庁メディア芸術祭優秀賞受賞。『イノサン』が第17回文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品に選出、第18回手塚治虫文化賞ノミネート、マンガ大賞2015第7位。『イノサンRougeルージュ』が第21回、第22回文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品に選出。
Twitter:@14MOUNTAIN