インクやトーンなどが長く使われてきた漫画の世界
デジタルツールの普及で大きな変化が
大多数の出版社がデジタル入稿に
対応していく中でますます普及していきそうな
液晶ペンタブレット
プロの漫画家の現場では、印刷技術のデジタル化に伴い原稿の作成も確実にデジタル化が進んできています。下描きからペンタブレットで描く方法、漫画原稿に手描きしたラフをPCに取り込んで仕上げる方法など、作家の好みや作風によってやり方は人それぞれ。各漫画誌編集部も、約10年前まではデジタル環境導入の足並みはバラバラでしたが、今では大多数の出版社がデジタル入稿に対応しています。今回ご登場いただいた久米田さんも、他の漫画家さんからの影響を受け、約20年前からペンタブレットを使って、デジタルでの制作を始めたとのこと。下描きは紙と鉛筆で行い、その下描きをPCに取り込んだ後のペン入れからはマンガ制作ツール「ComicStudio」を使って液晶ペンタブレットで描かれています。アシスタントとのやり取りもすべてデジタルデータを通し、ベタ塗りやトーンの貼り付け、カラーページの着色などが行われた後にpsdデータ化。そのpsdファイルが編集部に送られ、編集者がネーム(台詞の文字)を打ち込んで完成原稿となり、印刷所に送られます。これまでは編集者が原稿を預かり、印刷所に入稿していた作業も、デジタルならあっという間。出版社側にとっても漫画家にとってもデジタル化の恩恵はかなり大きいようです。 出版業界のデジタル化が進むことで、今後ますます液晶ペンタブレットを使う作家が増えていくことでしょう。
久米田康治漫画家
1990年、『行け!!南国アイスホッケー部』で『第27回小学館新人コミック大賞』を受賞し、同作で『週刊少年サンデー』(小学館)デビュー。以降、『かってに改蔵』など社会風刺を織り交ぜた独創的なコメディで人気を博し、2005年より『週刊少年マガジン』(講談社)にて『さよなら絶望先生』を連載開始。同作は『第31回講談社漫画賞』を受賞し、テレビアニメ化され、さらなる大ヒットに。現在『週刊少年マガジン』にて、時間をテーマにしたコメディ『せっかち伯爵と時間どろぼう』を連載中。
下描きの描線をなぞって主線を入れるペン入れ作業。漫画を描くにあたって重要な工程です。「斜めの線を描くときなど、自分の描きやすい角度にCintiq 22HDを回転させて使えるのは便利ですね。液晶画面も大きく、描いているうちにどんどん集中力も高まる感じがします」。
トーン貼りやベタ塗りの工程でも液晶ペンタブレットは大活躍。「ベタ塗りはポイントを指定するだけで塗れますし、インクと違って修正も簡単。トーンも同じで、貼り間違えても修正がききますし、トーン削りなどもペンで筆圧をつけてなぞるだけで簡単に効果をつけられます。トーンの細かいゴミがたくさん飛び散って服や床に付着したり、手が汚れて困ることもなくなりました」。
デジタルの漫画制作では、キャラクターやコマをレイヤー化しておくことで、後からコマをぶち抜いたり、効果的な文字や強調線といった演出を追加するのも簡単。「編集作業も、液晶ペンタブレットなら描く行為の延長でできるので、直感的に演出を加えていくことができます」。また、雑誌で描いたカラーページを白黒の単行本に変換するときも簡単なのがデジタルのいいところ。久米田さんは液晶ペンタブレットを使ってスピーディーに線や塗りの部分を描き直し、単行本用に見やすいページを作り直しているとのことです。
作業時間を短縮し、
作品に集中することができるツール
「僕がデジタル環境を導入したのは、1990年代半ば。『行け!!南国アイスホッケー部』の終わりごろには、色塗りをデジタル化。紙とペンを使う感覚で描けるのが便利で、液晶ペンタブレットのCintiqの発売時にはいち早く購入しました。漫画はとても手間と時間がかかるのですが、Cintiqを導入してから作業時間が短縮され、そのぶん作品の質を高めることに集中できますね。長くCintiqシリーズを使ってきて感じるのは、描画性能が以前に比べて格段に良くなっていること。Cintiq 22HDは、縦にすると漫画原稿の実寸に近いので、漫画家には使いやすい液晶ペンタブレットだと思います」
Cintiq 22HD