これまで100人を超えるクリエイターへのインタビューとドローイング動画を紹介してきたワコムの人気コンテンツ、Drawing with Wacom。
見どころたっぷりのドローイングをより深く楽しむために、よく使われるテクニックや用語を、最近の動画を例に紹介していきます。これを読めばあなたもDrawing with Wacomに登場できるようになる……!?
- DwWの豆知識編
- ラフ~線画編
- 塗り編
- 仕上げ・テクニック編
液晶ペンタブレットを使うクリエイターが1枚の絵をみるみる描き上げていくドローイング動画。「目の前で起きていることがすごすぎてよくわからない!」という人のために、ドローイング動画を観るために役立つ基礎知識をまとめました。
ドローイング動画では、中盤から完成にかけてレイヤーを重ねながら様々なテクニックを駆使して色を塗っていく様子を観ることができます。
ドローイング動画解説〈塗り編〉
①塗り方の違い
カラーイラストでは線画をベースに色を塗っていくことが多いですが、「塗り」の工程はクリエイターの画風によって大きく異なります。色を乗せるたびに絵が変化していく様子は、ドローイング動画で最も見ごたえのある部分といえるかもしれません。塗り方は大きくいくつかのカテゴリーに分けることができます。
アニメ塗り
アニメーションのセル画のようにフラットな塗りを基調に明暗をつけていく塗り方です。デジタルの塗りでは実際のセル画と異なり、塗りにグラデーションを加えたり、色の境界をぼかして自然な塗りにする等の発展形を数多く見ることができます。一般に「ギャルゲー塗り」「ラノベ塗り」といわれる塗り方もアニメ塗りのバリエーションといえるでしょう。
アニメーター斉藤健吾さんのドローイング動画。まるでセル画のように見える、最も基本的なスタイルのアニメ塗り。
厚塗り
不透明度が高めのブラシを使って色を重ねていくことで陰影や質感を表現する塗り方です。アニメ塗りに比べて筆のタッチが残りやすいので、比較的アナログ感が高い絵になります。同じレイヤーに色を重ねていくので、完成までに作るレイヤーの枚数が少なくすむ傾向があります。デジタルではエアブラシやグラデーションと組み合わせることで物理的に絵具を塗り重ねるのとは異なる独特の表現へと進化しています。
せんちゃさんのドローイング動画。柔らかく淡い雰囲気の塗りに見えます、SAIのマーカーの不透明度を高くしたブラシによる厚塗りで描かれています。
グリザイユ画法
グレーの明暗だけで塗った下絵の上にレイヤーを重ねて後から色を乗せていく塗り方。[乗算]などの合成モードで色を塗ることで、下絵の明暗がそのまま塗りに反映される。グリザイユとはモノクロで描かれた絵画で、油絵や版画の下絵としても使われることがあるものです。
おはぎさんのドローイング動画。グリザイユ画法を使って、後半までモノクロで塗られていたイラストに色がついていく様子は神秘的です。
②塗り分け/マスク
デジタルでの彩色は一般的に線画のレイヤーの下に塗りレイヤーを作成して色を塗っていきます。その際、より効率的に色を塗っていくために、まず最初に塗るパーツ毎に基本となる色で塗り潰して「塗り分け」していきます。線画によっては自動範囲選択と塗りつぶしツールで「塗り分け」を作ることができますが、線画が閉じておらず塗りつぶしツールがはみ出してしまう場合はブラシを使って手塗りで「塗り分け」するケースもあります。
「マスク」とは特定の範囲に描き込みができなくするための機能全般を意味し、パーツ毎の「塗り分け」も広義の「マスク」といえるため、メイキングでは「塗りマスクを作る」などと表現されることもあります。
U10さんが塗り分けを行う様子。完成形をイメージしながらパーツ毎にレイヤーを分けてベースとなる色で塗っていく。塗りつぶしツールで対応できない場所はGペンブラシによる手作業で塗っている。
③クリッピングマスク
前述の「マスク」機能の内、下のレイヤーで色が塗られている部分をマスクにして、上のレイヤーを切り抜く機能を「クリッピングマスク」といいます。「塗り分け」で作ったレイヤーを使ってクリッピングマスクを作ることで、アニメ塗りで影をつける時にパーツからはみ出さずに塗ったり、厚塗りで塗り重ねる範囲を限定して作業したりすることができます。
せんちゃさんの塗り作業。パーツ毎に塗り分けされたレイヤーでクリッピングマスクを作成して、マーカー系ブラシではみ出すことなく影を塗り重ねていく。
④ブラシ塗り、バケツ塗り、投げなわ塗り
色を塗るのに使われるツールは画風や工程、塗る部分によって変わってきます。最も標準的な塗り方は「ペン」「筆」「エアブラシ」などの「ブラシ」を使い、ペンを動かして塗っていく「ブラシ塗り」で、ドローイング動画でも塗り作業の大部分を占めています。
LAMさんのブラシ塗り。絵柄のイメージとは異なり、あまりレイヤーを分けずにフラットに塗れるGペンブラシと消しゴムツールを使ってひたすらペンを動かして塗り進めている。
塗り分けや、広い範囲を同色で塗り潰していく時に使われるのが「塗りつぶし」ツールを使った塗り方です。「塗りつぶし」ツールのアイコンが「バケツ」であることから通称「バケツ塗り」といわれています。
まるで線画にペンで色を置いていく様に見える、なぎみそさんのバケツ塗り。パーツごとにレイヤーを分けず、キャラクターの全身を範囲に1枚だけ作成した塗りマスクをベースにバケツ塗りで塗り分けていく。
バケツ塗りではブラシで塗りたい部分を囲ったり、範囲選択で塗りつぶす範囲を選択してやる必要がありますが、ここから発展した「投げなわ選択」ツールを使って塗りたい範囲を選択しながら塗りつぶしていく方法は「投げなわ塗り」といわれ、アニメ塗りのバリエーションで影をつける際によく使用されています。
GYARIさんの投げなわ塗り。髪の毛や服に乗せる影の形を投げ縄ツールで囲って塗り潰していく。
⑤エアブラシ、グラデーション
平面的で均一な塗りつぶしではなく、濃い色から薄い色へと変化していく塗りを「グラデーション」と言います。塗り分けたパーツを「グラデーション」ツールで塗りつぶしたり、「エアブラシ」ツールや「外側に行くほど色がボケて薄くなる柔らかめのブラシ」を使って、均一に塗られたパーツの外からブラシを当てる様に塗ることでグラデーション表現をすることができます。エアブラシやグラデーションはフラットな塗りに比べて立体感や透明感を出しやすく情報量が多く見えることもあり、透明感が欲しい瞳の塗り重ねや、肌の赤みを出したりする際にも活躍します。
U10さんが塗り分けパーツ毎にエアブラシでグラデーションを加えていく様子。平面的な塗り分けがグラデーションによって立体感が強調されると同時に、U10さんのイラストがもつキラキラした印象も生まれている。
⑥ぼかしツール/指先ツール
ペンでなぞった部分の色をぼかしてくれる「ぼかしツール」や、塗りたての絵具を擦ったように引き延ばしてくれる「指先ツール」は、色と色の境界をぼかすことで塗りを柔らかくしたり、ツヤを表現したりするためによく使われています。エアブラシやグラデーションと比べて、ペンの動きに合わせてランダムにぼかすことができるので、ドローイング動画では毛の流れを意識しながら髪のツヤを塗ったり、アニメ塗りでフラットに塗った影を柔らかくする場面などで使われているのを見ることができます。
森倉円さんが髪の毛のツヤを塗る工程。ブラシで作った明るい部分を髪の流れに合わせてCLIP STUDIO PAINTの「透明水彩(水多め」と「色混ぜ」ツールでぼかすことでツヤ感を出している。
高橋しんさんはフラットなブラシで塗った色の境界をAdobe Photoshopの指先ツールを使ってぼかすことで筆塗りの様なタッチを加えています。
⑦影
影になる部分の塗りは、通常の塗りレイヤーで塗り重ねるほか、「乗算」、「焼き込み(リニア)」、「スクリーン」等のレイヤー合成モードを使ってベースとなる色で塗ったレイヤーの上に重ねて表現するケースも多く見られます。影の色はベースとなる色を暗くするだけではなく、色相を変えることで周辺からの照り返しや環境光の表現にも繋がるポイントなので、影を塗る色に注目してドローイング動画を観ると新たな発見があるかもしれません。
mebaeさんの影塗り作業。複数のキャラクターの影を同じ1枚のレイヤーに塗っている。同じグレーで塗った影が「焼き込み(リニア)」でレイヤー合成することでベースとなる部分に合った色の影になっている。
⑧ハイライト
ハイライトは絵の中の明るい部分でも、特に強い光が当たって明るくなっている部分で、主に「白」に近い色で表現されます。塗り工程の終盤にブラシやエアブラシで描き加えられることが多く見られますが、クリエイターによっては「発光」「覆い焼き(カラー)」等の合成モードのレイヤーで塗り重ねることもあります。ハイライトの形や大きさは光源の方向や強さ、布やビニールといった材質感の表現に繋がるポイントにもなっています。
透明感のある塗りで光を感じさせる、ねづみどしさん。SAIの「発光」レイヤーで光源からキャラクターに当たる光のハイライトを乗せています。
⑨レイヤーの合成モード
デジタルでの塗りの最大の特徴はレイヤーを重ねることでアナログにはできない表現ができることでしょう。レイヤーはただ上下に重なるだけではなく、合成モードを選ぶことで様々な表現をすることができます。ドローイング動画でよく使われれるレイヤーの合成モードを紹介します。
通常
通常のレイヤー。重ねると下のレイヤーが隠れます。
乗算
下にあるレイヤーの色と重なって色が暗くなります。線画の合成や影の塗りに使われます。
焼き込み
下にあるレイヤーの色を暗くして、上のレイヤーの色を重ねます。影の塗りに使うとコントラストが高くグッとしまった影になります。
発光/加算(発光)
下にあるレイヤーの色と上のレイヤーの色を重ねて明るくしつつ、周囲がふんわり明るく発光しているようになります。ハイライトや、宝石や照明など光るパーツの表現に使われます。
オーバーレイ
下にあるレイヤーの色の明暗によって発光と乗算を併せたような効果が出ます。グラデーション等と組み合わせて光の表現に使われます。
Drawing with Wacomはワコムタブレットサイトで毎月25日頃更新中です! 様々なクリエイターのインタビューと、貴重なドローイング動画をお楽しみください!!
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